1912年に実際に起きたタイタニック号沈没事件をベースに、新天地アメリカを目指す画家志望の青年ジャックと上流階級の娘ローズの愛の物語を描いた不朽の名作「タイタニック」(1997年)。同作はジェームズ・キャメロン監督による迫力あふれる映像と、運命的な出会いを果たした身分違いの2人による胸を打つストーリーが人気を博し、「アカデミー賞」作品賞を含む歴代最多タイとなる11部門で受賞した。日本では興行収入277.7億円(※興行通信社調べ)を記録し、公開から25年以上、洋画歴代興行収入1位の座を守り続けている。2023年には「タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター」として劇場公開。公開前からチケットが売り切れとなる映画館も続出し、公開後は上映回数も限られている中で、公開週末動員ランキング第5位を獲得した。そしてこのほど、4Kリマスター版が配信。ジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)の船首での象徴的なシーンなどが、26年の時を経て色鮮やかによみがえった。そこで今回、幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏があらためて「タイタニック」を視聴し、独自の視点で見どころを紹介する。(以下、ネタバレを含みます)
本編3時間超の大作
ベストセラーは必ずしもロングセラーではなく、時代を彩った大ヒット作が普遍の価値を持つとは限らない。加えて物事には、「ちょうどいいバランス」というものがある。映画でもワンマンライブでも、それは120分程度が一つの目安だろうなと私は考えている。本編2時間、ライブや上映の会場への移動が往復各1時間。そこに映画なら「予告編の時間」、ライブなら「開場から開演までの時間」が加わるから、いざガッツリ映画やライブに向き合おうとなれば、はっきりいって1日に起きている間のかなりの時間が費やされる。それで言うと「タイタニック」(1997年)の上映時間が約3時間15分というのは、なかなかのボリューム感だ。
主演はレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレット、といっても、収録当時の彼らはまだ押しも押されもせぬオーラで圧倒するような大スターではなかったはず。人気上昇中の、とても将来が楽しみな気鋭俳優、といった感じ。しかもモチーフとなる「タイタニック号」は、処女航海の途中で沈んでしまった、つまり乗客や荷物をA地点からB地点に送り届けるという、船の役割的なものを、一度もなしとげないまま逝った乗り物なのである。どうせ沈むと分かっている、あまりにも有名な悲劇的結論を導き出した物語を、誰が3時間もかけて見たいだろう?
が、これが大ヒットした。今回の4Kリマスター版をきっかけにこの映画と本当に久しぶりに再会したが、20代の頃に見た時と変わらず猛烈に引き込まれ、しかも今は仕事柄、研究グセがついているので、見終わった後にタイタニック号の悲劇について調べまくったのは言うまでもない。
壮大なスケールの「愛の物語」
なぜヒットしたか、今見ても心をつかむのか。これに関しての答えは「愛」。「そこに愛はあるんか?」と大女優が決めゼリフを叫ぶCMをよく見るが、「タイタニック」には愛があるのだ。実際にあった悲劇的な事故に、創作ラブストーリーを掛け合わせて、さらに身分や階級の差という要素もちりばめて、極めてドラマティックな内容に仕立て上げた。「愛」を、作品の太い背骨にした。実際、「ジャックはローズと一緒にドアに乗って助かることもできたのでは?」という議論に、キャメロン監督は「ジャックは死ぬ必要があった。『ロミオとジュリエット』のようなもの。『タイタニック』は愛と犠牲、死についての映画で、愛は犠牲によって図られる」とも語っているとか。さすがトップランナーだ。
「タイタニック」は、いわゆるセレブが多く乗船する超高級船。ウィンスレット扮(ふん)するローズもセレブと言えばセレブだが、実のところは家の経済状態が傾いていて、そのために金だけはうなるほどある、しかし異様にセコい男と愛のない婚約生活を送っている。船では「一等エリア」に立派な部屋を持つ。一方、ディカプリオ扮するジャックは芽の出ない画家で、ぜひ新天地アメリカで成功したいと、半ば偶然に船に乗り込んだ。「三等エリア」にブロイラーのように詰め込まれた多数の中の一人で、行動も口調もいささか荒っぽい。
通常ならすれ違うこともなさそうなこの二人がいかに出会ったか、このあたりの描写も実に細かいのだが、とにかくローズは、感じたままに生きるようなジャックに大変なスリルを感じ、ジャックは、俺ともあろう者がこんな上流の美女と知り合えるなんてとテンションを上げる。そうなると面白くないのがローズの婚約者だが、この男、ヤボを煎じ詰めたようなキャラで、芸術に関しても、ローズとは正反対に全くといっていいほど理解を示さない。「アート? それで腹が膨れるのか? いくら儲かるんだ?」とは言っていなかったけれど、そんなセリフが彼の表情から私には聞こえてきた。
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