「Love Letter」(1995年)、「スワロウテイル」(1996年)、「リリイ・シュシュのすべて」(2001年)、「リップヴァンウィンクルの花嫁」(2016年)など、独自の映像美に湛えられた作品を発表し、多くの映画ファンを魅了し続けている岩井俊二氏。新房昭之監督によりアニメ映画化された「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の原作ドラマ「打ち上げ花火―」(1993年フジ系)は、彼が活動の主軸をテレビドラマから映画へと移すきっかけとなった、“映像作家・岩井俊二”のフィルモグラフィーを語る上でも重要な作品の一つだ。そこで今回は岩井氏に、原作ドラマ「打ち上げ花火―」に込めた思い、そして、アニメ作品として新たな命が吹き込まれた映画「打ち上げ花火―」の見どころを語ってもらった。
──岩井監督が24年前に手掛けたテレビドラマ「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を原作とした劇場アニメ映画がついに公開されますが、最初に今回の企画を聞かれたときは、どんなふうに思われましたか?
川村(元気)プロデューサーからお話をいただいたのが一番最初だったと思うんですけど、聞いた瞬間はやっぱり、「一体何てことを思いつくんだろう」と(笑)。びっくりはしたんですけど、でも一方で、この作品がアニメで見られるのはうれしいなという気持ちも正直ありましたね。
──アニメといえば、岩井監督も以前「花とアリス殺人事件」(2015年)というアニメ作品を手掛けられていますね。
僕は一回やっただけなので、全然語れるレベルじゃないんですけど、アニメって、実写に比べるとはるかに大変なんですよ。実写だと、役者さんのお芝居を撮れば、そのシーンは終わりですけど、アニメは一枚一枚描かなきゃいけない。当たり前ですけど、ものすごく人手も手間も掛かるし、非常に労力の掛かるエンターテインメントだなと。この作品も、最初に企画が立ち上がってから5年くらい経ちますが、今は“やっとできあがったな”と、感慨深いものがあります。
──アニメ化するにあたって、原作者の立場から「ここだけは変えないでほしい」といった要望はあったんでしょうか?
基本的には何もなかったです。自分も作り手なので、新たなアプローチをするのであれば、どんなふうに変わっていくんだろうというところに、むしろ興味が湧きますから。そもそも僕自身、原作ものを手掛けるときは「ここまでやっちゃうの?」というくらい変えちゃうタイプですし(笑)、全く違うものになったらなったで面白いな、と。ともあれ、あまりこちらに遠慮されると、いい作品にはならないので、「原作ドラマを意識しすぎず自由にやってください」というスタンスで、とにかくすてきな作品ができればという思いだけでしたね。
それに今回、本打ち(※脚本作りの打ち合わせ)に毎回呼んでいただいたんですよ。「原作者ってこういう場にいていいんだっけ?」と、ちょっと申し訳ないような気持ちも感じつつ(笑)、本打ちに最後まで参加させてもらったので、もはや原作者として引いた視線で見ることができなくなってしまったところもあります(笑)。
──劇中に出てくる、「もしも玉」(時間を繰り返すきっかけとなるアイテム)の設定は、岩井監督のアイデアだそうですね。
「打ち上げ花火―」の原作ドラマは、「if~もしも」(1993年フジ系)というオムニバスドラマの中の一編として作った作品なんですが、「if~もしも」には、初めから“もしも○○だったら?”というルールが設定されていたので、特に説明がなくても、ある分岐点からもう一度物語が始まるという流れが、当たり前のものとして視聴者に受け入れてもらえたんですね。それが、後に単体の作品として劇場で公開されて、さらに海外でも上映されたときに、海外の観客からは「どうして時間が巻き戻ったの?」とか、「何でもう一回始まるの?」といった疑問が出てきて。それはそうですよね、その点についての説明が一切ないんだから。今までは「夏の思い出は幻のようなもので、それを時間を巻き戻すという形で表現しました」とか何とか、いろいろ理屈を後付けしてしのいでいたんですけど(笑)、今回のアニメでは、その時間軸の問題はちゃんと説得力のある描き方をしなきゃいけないなと。そこで、僕の方から「もしも玉」の設定を提案して。さらに、脚本の大根(仁)さんから、時間を遡るのを何度も繰り返す、というアイデアが出てきたんです。
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