近年、盛り上がりを見せている台湾作品。昨年末には名作映画を紹介する上映イベント「TAIWAN MOVIE WEEK」が開催されるなど、じわじわと注目を集めている。そんな中、今回は映画コメンテーターである有村昆に、台湾映画の盛り上がりについて話を聞いた。
台湾映画には「アイデンティティを感じられる作品が多い」
ーー有村さんの目には、台湾映画の盛り上がりはどのように映っていますか?
個人的には、台湾映画は良い意味でガラパゴス進化しているなと思っています。どの映画文化にも似ていない。ハリウッド映画とかヨーロッパ映画とか、それぞれに色があると思うんですけど、台湾映画はどこにも属していないのかなと。台湾は国際的な課題を抱える地域でもありますから、だからこそ自分たちが台湾人であるというアイデンティティを感じられる作品が多い印象です。今の台湾映画は、昔のニューシネマ時代の空気に似ています。ロックで前衛的でだったんですが、でも今はそれを一蹴して、自分たちの言いたいことを言いつつも、エンターテイメントとして見ても素晴らしい作品が増えていますね。恋愛映画でもLGBTについてちゃんと描かれていて、それが賞を獲っているんです。『親愛なる君へ』という作品を見たんですけど、クオリティーが高くて本当に面白かったです。
ーー台湾映画にはどのような特徴を感じますか?
若い監督が多いと思います。台湾は映画産業自体がこれから世界のマーケットに出ていく段階。この状況って、20年ほど前に韓国映画の「シュリ」が大ヒットしたことを皮切りに、「冬のソナタ」などの韓流ドラマの流れができた時のような“ワサワサ感”が今あるんですよ。世界的にも「台湾ホラーが面白いぞ」って流れになっていて、“その次”に何がくるのかが楽しみですね。若い人たちが模索しながら突破口を開いているところだと思います。今まさに黎明期から成熟期になりかけている感じで、そういう時って面白い映画がたくさん出てくるんですよ。だからこそ、今、台湾映画に注目してほしいですね。
サブスク時代は台湾映画にとって「めちゃくちゃチャンスがある」
ーーNetflixなどのサブスクサービスの登場は、台湾映画どのような影響をもたらしたと思いますか?
サブスクで台湾映画の再生が伸びたら、一気に世界進出できるわけじゃないですか。Netflixは定額制だから、ハズレの作品も気軽に見られるんですよね。「好みのジャンルじゃないけれど、流行ってるから見てみよう」みたいな観賞が気軽にできる。良い作品を作れば、自然と再生数が伸びる。そういう現状なので、台湾映画にとってもすごく良い状況だと思います。
――“作品力”で勝負ができる時代になってきている?
Netflixには全ての作品が同じ並列で置かれますよね。それが良いなと。台湾映画を一度観た人には、次もアルゴリズムで台湾映画が表示される確率が高いんですよ。そういった意味では、めちゃくちゃチャンスがあると思います。
ーー印象に残っている台湾映画はありますか?
『セデック・バレ』ですね。日本統治時代を描いている話なんですけれど、アクション映画としてめちゃくちゃ良くできていますよ。あとは『KANO 1931海の向こうの甲子園』ですかね。日本統治時代に、台湾のチームが甲子園に出た話を映画化した作品なんです。日本から教えに行っているコーチが台湾のチームを鍛えて、甲子園で優勝しようっていう話です。あと『親愛なる君へ』は、台湾のアカデミー賞で最優秀主演男優賞と最優秀助演男優賞を獲っているんですけど、良かったですね。シリアスな話だけど、観終わった後に「観て良かったな」って思える作品でした。
台湾映画の魅力「自由な発想で荒削りにやっているのが面白い」
ーー日本と台湾は文化的に近い部分がありますね。
そうですね。やっぱり、同じ島国って部分が大きんじゃないですかね。台湾と九州って似てるんですよ。台湾と九州の大きさってほとんど一緒なんです。台湾には2300万人くらいいて、人口密度が高いってところは東京っぽいですし。アニメが好きっていうのも同じで、感覚が似ているのかもしれないですね。
ーー最後に、台湾映画の魅力をお聞かせください。
台湾映画は独自の進化を遂げていて、どこの映画にも似ていないのが魅力です。東南アジアともまた違うんですよ。訴えかけるところはちゃんと訴えかけていて、自由でエモーショナルな雰囲気があります。そういった部分は、日本の映画よりも魅力的ですね。あとはクリエーターが皆若いので、自由な発想で荒削りにやっているのが面白いです。台湾映画は、これからビッグウェーブを起こすんじゃないかなと思っています。