<海のはじまり>最終話を前に村瀬Pが名シーンや脚本・演出のこだわりを語る「素晴らしいシーンに辿り着けた」

弥生(有村架純)(C)フジテレビ

脚本家・生方美久氏への信頼


また、せりふ選びで意識している点について聞かれると「生方さんは類まれな才能を持っていると思うので、よほど気になるものや、わからないものが出てきたとき以外、せりふを直すことはないです。ただ、生方さんといつも話しているのが、いろんな考え方を持っている人がドラマを見るので、伝えたいことが伝わらない分にはいいけど、間違ったり誤解されるように捉えられるんだったらそれはやめようと言っています。それは、僕たちの作り方にとってものすごく大事なことで。これだけ人の心を丁寧に描いていると、ある時点で違うふうに捉えられてしまうとその後のその登場人物の感情をすべて違って捉えられかねないので、そこはものすごく意識しています。でも、彼女がそれを前提として考えてくれてるせりふですし、この世に無限にある言葉の中から彼女が選んでいる言葉ですから。何でもない会話の中でも常に珠玉のせりふが散りばめられているので、僕や監督がせりふに関してこう変えようと言うことは滅多にないです」と生方氏への信頼をのぞかせる。

さらに、「これは僕の話になるのですが、『silent』で紬(川口春奈)が言っていた『少ないっているってことだもんね』というせりふ。僕はこれを生方さんとドラマを作るときに大事にしています。『いちばんすきな花』でも描いていましたが、多くの人は何かを決めつけたがるんですよね。だけど、そうじゃない人もいる。いろんなパターンがあって、いろんな人がいる。『少ないっているってことだよね』ということを僕は常に意識して、生方さんの本を受け止めて世に送り出しています」と脚本を作る上でのスタンスを明かした。

水季(古川琴音)の母・朱音(大竹しのぶ)(C)フジテレビ


監督ごとの名シーン&電話のシーンへのこだわりを明かす


本作の演出を手掛けるのは、村瀬P、生方氏と過去作でも組んだことのある、風間太樹監督、高野舞監督、ジョン・ウンヒ監督。「3人ともとても信頼している監督です。それぞれに特徴があるので、僕はよく役者に対してあてがきすると言いますが、監督もあてがきというか、この話をこの監督に撮ってもらいたいという狙いがあります。監督に合わせて脚本を作ってるわけじゃないですけど、早い段階で第1・2話は風間監督、第3話は高野監督、第4話はジョン監督、第5話は風間監督、第6話は高野監督、第7話はジョン監督…というふうに担当回を決めて、それを生方さんに伝えています。きっと生方さんはそれぞれの監督の持ち味を意識しながら脚本を書いてくれていると感じる部分もあります」。

そして、監督ごとに名場面があると言い、「風間監督はやっぱり何と言っても第1話、葬儀場の外で朱音(大竹しのぶ)から『想像はしてください』と言われたときの夏の芝居の良さ、その直後に海が『夏くん!』と名前を呼び、そこで水季の映像が流れ、一瞬の静寂になって主題歌が音楽が流れるところ。芝居をしっかり見せる力と、映像で魅せる力、どちらもすごく出ていて風間監督の真骨頂でした。一方で高野監督は、第3話のラスト、back numberの主題歌を長めに流して、海辺で夏と海が2人で語り『いなくならないで』っていうシーンが素晴らしかった。まるで2人がただそこにいたのをただ映しただけかのような、自然な表情を2人ともしていました。高野監督の優しさがあふれ出た、素晴らしいシーンだったと思います。ジョン監督は、第4話の弥生と水季の過去が交錯していくところと、第7話の津野(池松壮亮)の描き方です」と語り、特に第7話での津野が朱音から水季の訃報を知らせる着信を受けるシーンについては「圧倒的」だと言う。

「実は台本では『はい』で終わっていたんです。僕のXにも書きましたけど、訃報の電話って何か分かってしまうじゃないですか。特に、水季に残された時間が少ないって分かっている状態で、津野はたぶん電話が鳴った時には既に何かを感じていて、朱音だって分かったときにはもう確信を持っていた。だから、台本では『はい』の言葉で終わりになっていて、撮影もそのつもりだったのですが、ジョン監督は池松さんにその先の芝居もしてもらいました。そうして生まれたのが、あの津野の“慟哭”です。その芝居があまりにも良かったので、丸々全部残すことにしました」と裏話を明かす。

ドラマ作りの上で、電話のシーンは相手を映すか映さないかを制作陣で議論していると言い、「例えば、朱音が津野に『四十九日来ない?』と言うときには朱音の声は聞こえているけど朱音の画は見せていない。いろんなパターンがある中で、津野が訃報の電話を受ける時には、向こう側の声も見せない。電話一つをとっても見せ方をものすごくこだわっています。ちなみに過去の2作品でもやったんですけど、電話の向こう側は基本的には一緒に撮っています。録音してそれを流して芝居するのではなくて、例えば第1話の夏と水季の別れの電話は、夏を撮っているときにその現場に古川さんにも来てもらって、目黒さんからは見えない場所で本当に電話をして話してもらっています。『silent』でこの撮り方をしたときに、これは特別なものが生まれるなと思ったので、電話のシーンは現場に来てもらってやることが多いです」と電話のシーンへの強いこだわりを語った。

【写真】津野(池松壮亮)の電話する様子…制作陣は電話のシーンにも強いこだわり(C)フジテレビ