松山ケンイチが“桂場”に込めた思い「僕の中でもすごく大切なキャラクターです」<虎に翼>

2024/09/20 12:00 配信

ドラマ インタビュー

理想と理想のぶつかり合いが加速していきます


――最終回に向けて、桂場等一郎はどのように動いていくのでしょうか。

穂高先生(小林薫)の考えでもある、“男性、女性、どんな人もいて、皆で法について考えることの大切さ”という理想に対して、一番こだわっているのは桂場だと思うんですよね。

法の問題というものは一つのトピックだけではなく、分厚い法律の本の中にありとあらゆる権利について書かれていて、ルールがあって。でも理想を追い求める中、時代の流れとともにどんどんそれらも“古く”なっていく。これは穂高先生も言っていましたが、古くなっていっている考え方や価値観をどう現代の解釈と擦り合わせていくのかということに対し、桂場は取り組んでいきます。

桂場は最高裁長官になり、一方でトラちゃん(寅子)は家庭裁判所の部分から何かを変えようと考えていく。変えようとしている広さだったり、トピックの種類が全然違う中で、桂場もやはり一人の人間ですし、すべてをさばききれない部分が出てきます。

桂場は頼れる人がものすごく少ない人なんですよ。法曹界の中でも、かなり尖っている人だと思いますし、司法の独立というものを追求し実現するためには、どこかで切り捨てなければいけない課題も出てきてしまう。

寅子との間でもそうですが、理想と理想のぶつかり合いが最後に向けてより加速していきます。味方でもあるけれど、時には敵にもなり得るという瞬間が出てくる。それらを通して、より桂場という人格に触れられる部分もあると思います。

(伊藤)沙莉ちゃんは電池切れがなく、本当にすごいです


――伊藤さんとの共演シーンも多かったと思います。どのような俳優さんだと印象をお持ちですか?

僕よりずっと出番が多く、毎日毎日撮影に励んでいる状況だと思うんですが、“電池切れ”みたいなことが全くないんですよね。それは本当にすごいなと思います。

僕も大河ドラマ主演時に経験したことなんですが、電池切れになると役の方向性に対して迷子になったりもするんですよ。それを修正することも考えられないような状態を僕は何度か経験しているんですが、沙莉ちゃんの佇まいを見ていると迷いがないように感じていて。

大河も朝ドラも長く演じる上で役の年齢も変わっていきますし、環境や立ち位置も変わっていく。その中でそれぞれ演じ分けていかなければと思うのですが、それを迷いなく演じられているので本当にすごいなと。体力あるなと思いますね。

――尊属殺人の判決前に、航一(岡田将生)と対峙するシーンも印象的でした。こちらのシーンの撮影はいかがでしたか?

星航一という人物は、表面上はかなり桂場に寄り添っているキャラクターだと思うんですが、航一自身、自らの考えや意見を飲み込んでいる状況はあったと思います。演技を見ていても感じましたし、それは桂場も気付いている。

桂場は航一にもある意味で押し付けている部分もあり、苦しんでいる方たちを救うために今すぐ救済するべきだという考え方の中で、いろいろなことをどんどん変えていきます。そして最後の最後に、航一がドカっと桂場に意見をする。

僕は、そこで航一が鼻血を出すということはすごく面白いなと思ったんです。もしも鼻血を出さなかったとしたら、桂場は航一ですら切り捨てるくらいの強さを持ち続けていたと思うんです。でも鼻血を出したことで、一旦熱が引くというのか…刀を出してバサッと振り下ろす寸前に、我に返るというのか。“とりあえず血を止めないと”って(笑)。そういう感覚がすごく印象に残っています。あの瞬間、刀を振り下ろさなかったと。

そのあとトラちゃんが出てきて、“どの私も私…つまり全部含めて、ずっと私なのか”というせりふがあるんですが、それもとても印象的ですね。桂場の中にも焦りや理想、さまざまな感情がある中で、自分の意見すらも切り捨て、最終的には司法の独立を果たすための動きをしてきて。

それでも今まで切り捨てたものも含め、すべて自分自身であるとトラちゃんの言葉から感じたんです。今、目の前に変えることが出来るチャンスがあるんだということを、改めて航一や寅子に教えてもらった。そして自分の中の大事に思ってきた部分は、消す必要もないということ。いろんな意見が自分の中にもあって、それでいいんじゃないのかと、桂場自身の生き方、考え方をすごく肯定してもらえたと思ったんです。とても心に響いて、その後の尊属殺人の判決にもつながっていったような気がしますね。