
台湾ドラマ「零日攻撃 ZERO DAY ATTACK」の日本配信が、Prime Videoにて8月15日からスタートした。中国による台湾への武力侵攻や浸透工作、すなわち「台湾有事」を正面から扱った史上初のドラマシリーズだ。
総統選挙を終えたばかりの台湾に、中国の脅威が迫ってきた。台湾東沖の太平洋にて、南シナ海を横断した中国の偵察機 Y-8 が消失。捜索と救助の名⽬で、中国は南シナ海と東シナ海に海軍と空軍を投⼊し、台湾を包囲したのだ。人々の間で不安が⾼まるなか、とうとう開戦へのカウントダウンが始まる。
シリーズは全10話のオムニバスで、エピソードごとに物語の内容やジャンル、主人公が異なる。ただし、ある回では主人公だった人物が別の回には脇役として登場するなど、全体を貫く物語にはつながりがある構成だ。製作陣はNetflixシリーズ「ブラック・ミラー」などを参考にしたというが、台湾ドラマファンならば「此の時、この瞬間に」を思い出すとわかりやすいだろう。
きわめてシリアスかつ切実、しかしめっぽうおもしろい。
第1話『戦争か平和か』は、総統選挙の投票所で爆破事件が起こるという衝撃的なオープニングから始まる。女性総統として当選が有力視されていたワン・ミンファンは辛勝するが、待っていたのは政界のいびつな構造だった。中国の脅威が迫るなかでミンファンは平和を改めて宣言するが、政権与党は過半数を割っており、前総統の思惑を無視できない。それどころか、党内では老獪な親中派がミンファンを丸め込もうとしており……。

シリーズを貫く物語の基盤を設定するエピソードだが、巧みなのは物語を性急に「戦争」そのものへと接続しない筋運びだ。中国機の消失だけでなく、ミンファンの身近なところでも台湾兵が突如姿を消し、さらに政界だけでなく裏社会を巻き込んだ陰謀さえも水面下では動いている。
かくも身動きのとりづらい状況で、新総統となったミンファンはいかに自らの力を獲得するか? 現実に迫る危機を物語の背景に置き、今の情勢を随所に反映した、“台湾ならでは”のオリジナリティあふれるポリティカル・サスペンスだ。
現時点で配信されているのは第1話のほか、第2話『ショーザイ』と第3話『放送中』。台湾海峡の戦争という今もっともシリアスで切実なテーマを扱いながら、いずれも非常に充実したエンターテインメント作品に仕上がっていることに驚嘆する。
第2話『ショーザイ』は、金儲けのためカンボジアに出向くも失敗し、なんとか台湾に戻ってきた青年ショーザイが一発逆転を狙うダークな青春物語。妊娠した恋人と穏やかな生活を築こうとするショーザイだったが、やることなすことうまくいかずにフラストレーションはたまる一方。戦争の足音が近づくなか、彼が選んだ「大金を稼ぐ方法」は――。
高橋一生や水川あさみら日本人俳優も熱演
また、第3話『放送中』には日本から高橋一生が出演。中国大手チップ企業の藤原偉(高橋)は、とある機密情報を手に台北のホテルに潜んでいた。台湾で大規模な通信障害が発生し、さらに中国の追手が迫るなか、藤原は情報を伝えるべく、元恋人であるキャスターのシア・ユーシャンに独占取材を打診する。ところが、すでにテレビ局内も錯綜する情報と視聴率争いで混乱をきわめていた。

政治家、一般市民の若者、テクノロジー企業の重役、そしてテレビ局員と、エピソードごとに登場する人物の設定は多様だ。それぞれ戦争や中国との距離感が異なり、問題意識も違っている以上、物語から浮かび上がる葛藤と決断もさまざまで、それが「台湾有事」というたった4文字の言葉が真に意味している実相をあぶり出してゆく。
ただし、本作のテーマは台湾本国においても賛否を招くものだ。出演者には現在の台湾映画・ドラマ界で活躍している豪華な顔ぶれが揃ったが、キャスト・スタッフは今後、中国市場における活動が制限される可能性もある。エンドクレジットでも明らかなように、多くのスタッフが本名ではなく偽名で参加した。
すでに台湾では、第1話の放送後からSNSなどでさまざまな意見が飛び出している。ただしもっとも物議を醸したのは、「『零日攻撃』に参加した者は今後雇用しない」という通達が複数の製作会社から出ていると伝えられたことだ。作り手たちの危惧は早くも現実となりつつある。
ヘビーな題材とあって、楽観的でハッピーな展開など期待できるはずもない。すでに配信されている3つのエピソードにも激しい描写が含まれていた。けれども、そのハードな作劇とストイックな演出に、抜き差しならない問題へと挑む覚悟と熱意が見える。
なお今後のエピソードには、SFやファンタジー、フェイクドキュメンタリー、ブラックコメディ、ホームドラマなど、「この題材でどうやって?」という興味が湧くほど多様なジャンルと語り口が用意されているという。個別のエピソードはもちろん、この野心的な物語がいかに着地し、そこに何が映し出されるのか、作品としての射程にも強く期待したい。
文:稲垣貴俊






























