【テレビの開拓者たち / 安永英樹】「金の事件簿」プロデューサーが語る“報道映像の可能性”
喜劇と悲劇は表裏一体。そんな人間ドラマを見せたいという思いがあるんです
──安永さんが手掛けられた中で、そんな「柔らかさ」を目指した代表的な番組が「加藤浩次vs政治家~政治のオモシロイところ集めました~」だと思います。若手政治家たちがひな壇に並んで、ざっくばらんなトークを繰り広げるところは、さながら「ジャンクSPORTS」(フジ系)の政治家版、といった感じでした。
「まさに、それですね。あの番組は、そもそも加藤さんとの雑談から始まったんですよ。『政治家の皆さんって、キャラが濃くてタレントみたいだね』とか、『そういえば政党も芸能プロダクションみたいだよね』とか話しているうちに、『政治をテーマにバラエティーを作りたいね』という話になって。『どうせなら若手でやろうよ』『若手だったらやっぱりひな壇でどうだろう』なんて。僕はバラエティーに関しては門外漢なんですが、2009年から『リンカーン』(2005年TBS系)のチーフADを経験したことが役に立ちましたね。政治家の方々をいじったりしていますが、決して馬鹿にするつもりはなく、『政治って、こんなに面白いんだよ。だから、ニュース番組も見てね』というメッセージも込めたつもりです」
──1988~1989年に起きた連続幼女誘拐殺人事件の犯人・宮崎勤の取り調べの肉声を使った実録ドラマ「衝撃スクープSP 30年目の真実~東京・埼玉連続幼女誘拐殺人犯・宮崎勤の肉声~」も注目を集めました。
「長年培ってきたコネクションから入手できた肉声ですが、ただ普通にニュース番組で流すのももったいないので、いっそドラマにしようということで実現した企画です。膨大な音声を全部聞いて、編成部や共同テレビのスタッフと何度も台本を書き直しながら作りました。宮崎役の坂本真さんにも音声を全部聞いていただいて。坂本さんの完璧な準備には圧倒されましたね。宮崎が公判中にイラストを描いてるんですが、それも練習して再現されて…宮崎勤が乗り移ってるんじゃないかというくらいの演技でした。取り調べに当たる刑事を演じた金子ノブアキさんも、ご本人に指導していただきながら、迫真の演技を見せてくださいました。そんなお二人の熱演のおかげで、あの番組は本当に大きな手応えを感じることができました」
──安永さんは慶応大学や早稲田の大学院でフランス文学を専攻されていたそうですが、そのきっかけはカミュだったとか。宮崎勤を題材にされたのは「異邦人」の主人公と通じる部分を感じられたのかなと思いました。「太陽がまぶしかったから」ではありませんが、宮崎も常人の理解を超えた供述をしていたり。
「自分ではそこまで考えてませんでしたけど、言われてみればそれはあったのかもしれませんね。学生時代はカミュのほかにセリーヌという第二次大戦中にナチスに協力していた作家の研究をしていたんですよ。そんな欲望むき出しな人間の闇の部分を見るのが好きだったということは、今の仕事に少なからず活きているんでしょうね。
それと、学生時代に学んだのは、喜劇と悲劇は表裏一体だということ。これは、泣きながら笑う17~18世紀の演劇やオペラなどから学びました。『金の事件簿』も、税金滞納者と職員たちの攻防というのは、激しくて時に悲劇的だけど、どこか笑えるところもある。あるいは笑えるけれど、悲しい。そんな人間ドラマを見せたいなという思いがあるんですよ。…まさかこんなところでフランス文学の話になるとは思いませんでしたけど(笑)」