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綾野剛とは何者か?【てれびのスキマ】

2017/12/08 05:55

魔力が宿る綾野剛の業


比類なき妖しい色気を発散させる綾野剛
比類なき妖しい色気を発散させる綾野剛(C)TBS


綾野剛は業の深い役者だ。

しばしば見ていて息苦しくなることがある。なぜなら彼が、目を背けたくなるくらい役にのめり込んでいるからだ。昨今の俳優は“自然体”で演じることがよしとされる傾向がある。だが、彼はまったく違う。綾野剛はその人になりきる、を通り越して、憑依するのだ。そうせずにはいられないのだろう。「仮面ライダー555」('03~'04年テレビ朝日系)の怪人役で俳優デビューすると、その後、「Mother」('10年日本テレビ系)での幼児虐待する男の役を筆頭に暴力性の高い役を多く演じた。そして朝ドラ「カーネーション」('11~'12年NHK総合ほか)でヒロインと不倫をする周防を演じ、わずか3週間の出演ながら強烈な印象を与え大ブレイクした。大河ドラマ「八重の桜('13年NHK総合ほか)では松平容保を写真そっくりに演じ、今春は「フランケンシュタインの恋」(日本テレビ系)でデビュー以来再び怪物を演じた。そして現在は「コウノドリ」(TBS系)で心優しき産婦人科医になりきっている。

彼がいかに役に憑依するタイプなのかは、番宣のために出る番組を見るとよく分かる。たとえば、撮影前や撮影終了後に出るバラエティ番組やトーク番組の綾野剛は、「番宣でおじゃまさせてもらってるのに、斜に構えてる役者見ると、んっ?って思う」と言うようにとても気さくで協力的。自然体だ。だが、撮影の只中に出るときは、明らかに違う。もちろん変わらず協力的ではあるが、その役の人格が漂っているように見える。だから、どこかヒリヒリとした緊張感があるのだ。

ストイックなまでにその役を生きている。映画『怒り』('16年)で妻夫木聡とゲイのカップルを演じることになれば「一緒に暮らしてみようか?」と実際にホテルで“同棲”生活を体験したという。別にそこまでしなくても、と思うがやはり彼はそうせずにはいられないのだろう。役者の業だ。

そんな業を最も感じさせるエピソードがある。それは役者仲間の小栗旬が綾野の自宅を訪れたときだ。小栗は驚愕した。綾野の部屋には一枚のラグマットとクッション、一台のテレビだけしかなかったのだ。いわば、寝るためだけの部屋だったのだ。それを見て「この子は大丈夫なのか?」と小栗は自然に涙がウルウルとにじんできてしまったという。それに対し、綾野は「今、限りなく幸せなんですよ。その反動が出ちゃうんです、部屋に」と事も無げに微笑む。役者として役に生きていることで満たされているから、実生活が何もなくても構わないということなのだろう。

「2%ぐらいで生きてます。本番だけ100に限りなく近づける」(「SWITCHインタビュー達人達」(NHK Eテレ)'14年5月3日放送)

また、綾野剛は未来のことを考えるのが苦痛だとも言う。

将来のことを考えていると、今の瞬間で大事なことを見落としてしまうのではないかと。だからたとえば3連休があったとしても、うまく休みを使うことができない。旅行に行こうとすれば何かしらの計画を立てなければならない。もうそれが苦痛だと言うのだ。「今」に集中したいから3日後のスケジュールもできれば知りたくない。完成されたものにはまったく興味がなくなってしまう。子供のころからそうだった。金槌と釘を使って、洞窟を作るのが好きな少年だった。その洞窟も完成させるために作っていたのではない。ひたすら削ること自体に惹かれていた。つまり、「変化」こそが彼を魅了する。完成された未来よりも変化する「今」に綾野剛は魅了されるのだ。それは様々な役に変化する役者という仕事そのものだ。

「基本的には毎秒変わってるって自分でも言い聞かせてるんですよ。常に変容、変化、変化。何も怖くない」(「情熱大陸」(TBS系)'13年7月7日放送)

彼を見ていると現実を生きている綾野剛なのか、フィクションの中で生きている綾野剛なのか、その境界線が分からなくなりそうな錯覚に陥る。なんだか、役に取り込まれておかしくなってしまわないか、いらぬ心配をしてしまうほどだ。その“危うさ”こそ綾野剛の魅力だ。彼が他の役者ではなかなか感じることのできない種類の妖しい色気を発散させているのはきっと、そうした“危うさ”のせいだろう。たとえ息苦しさに負け画面から目を背けたくても、一瞬も目が離せない魔力がある。

(文・てれびのスキマ)

【写真】怪物役から心優しき産婦人科医まで、2017年も“憑依”しきった綾野剛
【写真】怪物役から心優しき産婦人科医まで、2017年も“憑依”しきった綾野剛(C)TBS


◆てれびのスキマ=本名:戸部田誠(とべた・まこと) 1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『1989年のテレビっ子』、『タモリ学』、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか』、『コントに捧げた内村光良の怒り』など多数。雑誌「週刊SPA!」「TV Bros.」、WEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載も多数。7月より「月刊ザテレビジョン」にて、人気・話題の芸能人について考察する新連載「芸能百花」がスタート

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

◆てれびのスキマ◆1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌「週刊SPA!」やWEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載多数。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』など。新著に『笑福亭鶴瓶論』

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