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役者・梅津瑞樹、自ら手がけた舞台脚本を語る 橋本祥平と組んだ演劇ユニット・言式で描く「ナンセンスなおかしみ」とは

2025/12/03 12:01

梅津瑞樹
梅津瑞樹撮影=簗瀬玉実

梅津瑞樹橋本祥平、深い演劇愛と確かな演技力で人気を集める役者ふたりが共同企画した話題の演劇ユニット・言式(げんしき)。「常にやりたいことを『試』みる」という意味が込められたユニット名の通り、挑戦にあふれた旗揚げ公演「解なし」を2023年に上演。本作で初めて舞台脚本と演出を手がけた梅津瑞樹は、プレイヤーでありながら同時に劇作家としての才能も開花させた。

以降、年一作のペースで新作を上演するなか、彼の劇作家としての初書籍『言式 戯曲集』が12月3日(水)に発売される。第一作「解なし」と2024年上演の第二作「或いは、ほら」の脚本を収めた本戯曲集の制作を通し、あらためて自らの作品に向き合った梅津瑞樹に、言式としての表現について、そして演じるということへの思いを聞いた。

――言式の立ち上げと旗揚げ公演の発表が2023年7月。その少し前に、今後の作家としての目標として「戯曲集を出してみたい」とお話しされていましたね。

当時は予定も何もなく、ただ「出したい」という欲望を口にしただけでしたが……、今はすごく不思議な気分です。というのも、僕は大学で文章を学んでいたのですが、その道で生きていくということはなく。逃げる意味で演劇の道に来たという部分もあったので、回り回って戯曲集を出すことができたのは何か不思議ですし、とても嬉しいです。学んできたことと別のことで世に出て行こうと決めたとき、「(大学での)あの4年間はすべて無駄になったんだ」なんて思ったこともありました。でも、強靭な意志でしがみつき続ければ、最初に自分がやりたかったことに帰って来られるのだなと。もちろん、いろんな方の手助けがあって、こうして出すことができたと思っています。

――特に記憶に残っている戯曲は、中学生のときに図書館で読んだ映画『ゼブラーマン』の宮藤官九郎さんのシナリオ本だったとか。

当時、宮藤官九郎さんの本をいろいろと読んでいました。『ゼブラーマン』はシナリオを読んでから映画を観たのですが、映画はもちろん、戯曲の段階でもうすごく面白くて。ト書きがあると、ちょっと覗いてはいけないものを見ている感覚があり、戯曲っていいなと思いましたね。ただ、戯曲だけ読むと「これ、どうなってるんだ?」と想像のつかないところが多々あった印象があります。もちろんそれを想像するのは楽しいですし、ぜひ皆さんにも戯曲を読んで演出を考えていただく楽しさを実践していただきたいのですが、今回の『言式 戯曲集』は戯曲集としては珍しく舞台写真もたくさん掲載した豪華な作りになっています。戯曲と写真を一緒に見ていただくことで、ト書きにない演出も伝わるといいなと思っています。

梅津瑞樹
梅津瑞樹撮影=簗瀬玉実


――梅津さんがセレクトしたという、戯曲集に掲載された舞台写真は、演出が印象的なシーンを大きめに配置していますね。

意図的にキャッチーな場面を多く詰め込んだこともありますが、画(え)として切り抜いたときに、「こんなにも面白いシーンが多いんだ」という発見がありました。特に、「解なし」シーン5の祥平の写真(戯曲集p.14右下の写真)は素晴らしいですね。これは、「どこかの劇団にあるかもしれない謎の方法論」というオーダーを祥平が演じてくれた場面です。劇団の人たちはいたって真面目に、至高のものだと信じて疑わずにやっているけれど、端から見たら「何それ?」となるような演劇の方法論。その奇妙さを面白さ込みでやっていたのですが、こうして写真で見ると「役者の肉体ってこんなにも美しいんだ」と思いますね。内なる生命の躍動みたいなものをすごく感じました。

――実際の上演時は、台本に書かれたものから台詞が少し変わっていますが、あえて執筆時の台詞のまま戯曲集に掲載したのは理由があるのでしょうか。

そうですね。戯曲集発売の話が立ち上がったときから、演劇部の学生や役者を目指す人たちに演じてみてほしい、という思いが強くあって。「あなたの思う面白い」に転がしていける余白と、物語としての余白も残したいなと思い、あえて台詞を書き換えずに元の表現を残しました。DVDなどで映像と見比べていただきながら、「ここの台詞はこういうふうに膨らんでいったのかな」と想像していただいたり、「こう言ったほうが自分の感性的に面白いかも」と考えながら実践していただいたりする楽しみを提供したかったんです。余白を残すという意味で「原本ママ」みたいな戯曲集にできればと思って制作に臨みましたね。

――ご自身で映像と原稿を突き合わせてチェックしていくなかで、何か発見はありましたか?

とはいえ思った以上にだいぶ(台詞を)言い換えているな、とは思いました(笑)。祥平にも「本当に重要な箇所以外は言い換えていいよ」と言っていたのですが、(言い換えによって)よくここまで面白く肉付けできたな、と思うところも多々ありましたね。あと自分の作品なのに「こういうの、もう一回やりたい」と映像を観ながら思えたことは、発見でした。これまで、こと演劇に関しては、上演が終わった出演作品の映像を見返すことってほぼなくて。自分のなかで消化しきったものはもう観たくないんですよね。でも今回、戯曲集やDVDを発売するので、初めて振り返りをして。自分のやったことに対して「いや面白かったでしょ」って今でも言える、その誇りを未だに持ち続けられていることが嬉しかったです。

【写真】梅津瑞樹撮りおろしグラビア
【写真】梅津瑞樹撮りおろしグラビア撮影=簗瀬玉実


――戯曲集の装画も手がけられていますが、こちらはどんなふうに制作されたのでしょうか?

「解なし」と「或いは、ほら」を観てくださった方にはもちろん、今回初めて戯曲集で読んでくださった方にも、読み終わって表紙に立ち返ってきたとき「これってあれなのかも」と想像できる匂わせ方をしたいなと思い、作品の要素を入れ込んで制作しました。まず、キャンバス3つくらいに下書きをして。コラージュに使った写真は一気にバーっと撮って、素材を並べて組み合わせながら仕上げていきました。トータル10日間くらいで完成したかなと思います。

――目が離せなくなるような、引き込まれるコラージュアートですね。

人によって、ちょっと気色悪いと感じる絵ですよね(笑)。僕が小学生のときの思い出なのですが、図書館で本を選ぶとき、背表紙に惹かれて取った本の表紙絵が特異だと、「ムムッ」とさらに気になって。そういう本をよく読んでいたんです。今回の装画でも、あのワクワク感をご提供したいなという思いがありました。古い子ども向けのSF本で『ぼくのまっかな丸木舟(国土社刊)』という作品があるのですが、結構その表紙も独特で、それがすごくいいんです。後に僕が出した写真集『その丸木舟の行く先』(主婦と生活社刊)のタイトルは、この『ぼくのまっかな丸木舟』を意識しているところがあります。装画って、そういうふうに人生にずっとこびりつくような作品と偶然出会うきっかけにもなりますよね。

――梅津さんの装画が読者の方とこの戯曲集との、ひいては演劇との出合いの架け橋になったら素敵ですよね。

梅津瑞樹
梅津瑞樹撮影=簗瀬玉実


――それから、戯曲部分の紙は実際の台本でよく使われている紙の種類だとか。

やっぱり手に持ったときに、役者としてはめちゃくちゃ馴染みがいい紙ですね。ページをめくりながら、普段、僕らが稽古や読み合わせをしているときの感じを体感していただけるといいなと思っています。触れて、読んで、「あなたも演劇とすごく近しいところにいるんだよ」ということを知ってほしいです。あと「戯曲」って字面だけ見ると小説のさらに上を行きそうな感じがすごくあるのですが、実際は会話中心の文なんですよね。文章としての読みやすさ、とっつきやすさで言ったら、むしろ戯曲ってどの文学作品よりもカジュアルなものだと思うんです。

――とっつきにくさを感じて本をあまり読まない方にこそ、戯曲集がおすすめかもしれませんね。

そうですね。あとは作品を噛み砕く上で、一度自分で演じてみるということは、実は面白い試みではあるんです。読んでいるだけだと頭でっかちに考えてしまいがちになるのですが、自分の身体を通して台詞を言うことによって理解できることってあるんですよ。そこはぜひ、体感してみてほしいです。

――日常でなかなか演じることってないですし、楽しい体験になりそうです。

でも、思い返せば学校の国語の授業でみんな演じていたんですよ。先生に指されて、教科書の一節を読まされているときの、何とも言えないあの感覚。普段芝居をしない人たちと演じてみると、あの感じがあってすごく面白いですよ。まず、みんなが台詞を喋っているっていう状況がもうおかしくて。「この人って文章を読むときこういう声の出し方をするんだ」「こういう表情しながら読んじゃうんだ」「ノッてくるとこうなんだ」とか、その人たちに対していろんな発見がある。そういう楽しさも感じていただければと思うので、ぜひ演じてみていただきたいですね。

梅津瑞樹
梅津瑞樹撮影=簗瀬玉実


――戯曲集の制作を通して、あらためてご自身の脚本と向き合ったと思います。振り返って、「解なし」「或いは、ほら」はどんな作品になったと感じていますか?

先ほど、「架空の劇団の謎の方法論」の話をしたのですが、そういった何か「ナンセンスなおかしみ」みたいなものが詰まっていて、楽しいなぁとあらためて感じました。「人が生きていく上で生まれる不条理な部分」というものを、僕は描きたくて。人間って、意図せずに矛盾してしまうものだと思うんです。人間は理性で生きているから、とかく自分のことは矛盾しない生き物だと思っているし、世間もそうだと信じたがっている。けれど、決してそんなものではないと僕は思っています。そういうことを「解なし」「或いは、ほら」、そして3作目の「んもれ」でも描いてきたのですが、それは今後も書いていきたいなと。

――戯曲集限定版の特別小冊子で橋本祥平さんと対談をされています。そこでも今お話されていた3作品のテーマである「人間のナンセンスさ」を「無常観」という言葉にしてお話されていますね。

そうですね。人生の不条理さや常がない(無常観)ということは、人生に「答えがない」ということと同じだと思うんです。だからこそ、「ではあなたにとってのその『常』とはそもそも何なのだ?」ということを問い掛けたい。この戯曲集を通して、読んでくださる方にとっての「解」みたいなものを探ってもらえたら、何か考えるきっかけになったら嬉しいです。僕が夜なべして、本当にもう「目玉取れるのか⁉」というぐらい目をこすりながら魂を込めて書いた台詞の数々を、皆さんも重く重く受け取っていただいて(笑)。楽しんでいただけたらなと思います。

取材・文=髙橋裕美
撮影=簗瀬玉実
スタイリング=渡邉圭祐
ヘアメイク=車谷 結(zhoosh)
衣装協力=ジャケット、パンツ/ジャンピエール(問アドナスト)、シャツ/メアグラーティア、シューズ/アール(問ともにティニー ランチ)

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

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