【テレビの開拓者たち / 浜崎綾】賛否両論が巻き起こるくらい、見た人の価値観を揺さぶるものを作りたい
「MUSIC FAIR」の歴史は、日本の音楽史。言わば“文化遺産”なんです
──そして今、「MUSIC FAIR」の放送2700回記念コンサートが4週連続で放送中です。アイドルも演歌もバンドも一堂に会する、今や貴重な音楽番組ですね。
「この番組が果たす役割は明確に2つあって、1つは“成熟した大人の音楽を聴かせること”、そしてもう1つは“時代を切り取って記録すること”。今はJ-POPやアイドルが活況を呈していますが、それ以外のものを切り捨ててしまったら、日本の音楽シーンの一部しか見せられなくなってしまう。54年にも及ぶ『MUSIC FAIR』の歴史は、まさに日本の音楽史。言わば“文化遺産”なんですよ。何十年か後に見た人が『これ、いいじゃん!』って思ってもらえるような番組を作っていきたいですね」
──『MUSIC FAIR』では、どんな演出を心がけているのでしょうか。
「さっきまでの話と矛盾してしまうかもしれないんですが、歌の演出に関しては、なるべくオーソドックスであること、映像が主張し過ぎないことは意識しています。独自の世界観が確立されている番組なので、それは変えちゃいけないし、変わらない良さが『MUSIC FAIR』の魅力だと思うんですよね」
──トーク部分も、他の音楽番組とは違った雰囲気ですよね。バックにうっすらとテーマ曲が流れていたり。
「最初に、先輩の演出家たちから『この番組のトークに笑いは必要ない』と言われたのは衝撃でしたね。面白いトークをしなくていいし、スタッフの笑い声も、テロップも一切入れなくていいって。アーティストの方々には、面白いことを話すよりも、曲に込めた思いや日常生活のことを、リラックスした状態で話せる居心地の良さを感じてもらうことが大事。結果、テレビとしては最もシンプルな形を目指している番組だと思います」
──今回の放送2700回記念コンサートで、特にこだわったところは?
「大阪フェスティバルホールで収録したんですが、コンサートの実際の曲順と放送順は全く別になっています。放送のことを考えると、4週に分けた1回1回にフィナーレがないといけないわけですけど、コンサートで30分ごとにフィナーレがあったら、お客さんも戸惑うじゃないですか(笑)。生のコンサートと放送と、両方を考えながら演出するのはパズルみたいで面白かったですね」
──出演アーティストの顔触れについてのポイントは?
「2700回のお祝いということで、長年お世話になっている谷村新司さんやさだまさしさんたちの中に、Little Glee Monsterのような若手の方たちを入れる、というのが一つのテーマで。また、ミュージカルが盛り上がってきている中、石丸幹二さんや新妻聖子さんにも出ていただきました。ミュージカルスターの方はあまりテレビには出ないんですが、“いい歌をいい歌手で聴きたい”というニーズに応えたいなと」
──ずばり、コンサートの見どころは?
「石川さゆりさんは、JUJUさんと『ウイスキーが、お好きでしょ』をコラボしていますが、目線ひとつで艶やかに“歌を演じる”姿には感動しました。徳永英明さんとJUJUさんの『シルエットロマンス』は、2人で向かい合って、お互いに近付いていくんですが、どんどん気持ちが入って、どこまで近付くかが見どころ(笑)。森山直太朗さんの『さくら(独唱)』は、バンドなしのアカペラで、たった1人で2700人のお客さんに向かい合って熱唱する姿は圧巻です」
──では最後に、今後どんな番組を作ってみたいですか?
「最初の話に尽きるんですが、やっぱり見た人の価値観を揺さぶるものを作りたいですね。音楽番組に限らず、お笑いでもトークでも。コンサートの演出も、もっとやりたいです」