
是枝裕和監督と藤本タツキ氏のコラボレーションにより映像化された実写映画「ルックバック」が、9月11日より全国公開中。漫画へのひたむきな情熱で結ばれた二人の少女・藤野と京本がたどる、13年間の切なくも美しい軌跡を描いた青春ドラマだ。
本作で自信家の少女・藤野役の出口夏希とともにW主演を務め、圧倒的な画力を持ちながらもひきこもりがちな少女・京本を演じたのは、数々の是枝作品で確かな存在感を放ってきた蒔田彩珠。役と真摯に向き合った秋田での四季を通した撮影の日々や、共演者との撮影裏話、そしてセリフの少ない役柄を繊細に演じ切った役作りへの思いについて語ってもらった。
是枝監督との出会いから始まった「ルックバック」への挑戦
――まず、完成した映画をご覧になった感想からお聞かせいただけますか
本当に胸に刺さる素敵な作品になっていて、すごく感動しました。切なさも残るのですが、最後にはどこか心がじんわりと温かくなるような……映画が終わった後も、ずっと余韻に浸っていたくなる作品です。
――原作の「ルックバック」とは、元々どのようにして出会われたのでしょうか
原作が発売されてすぐ、是枝監督から「読んでほしい」と本屋さんで買っていただいたのがきっかけでした。それから4、5年ほど経って正式にお話をいただいて。原作もアニメ映画も本当に素晴しかったので、自分が実写で京本を演じることに対しては「どう表現したらいいんだろう」というプレッシャーや緊張感もありました。
でもそれ以上に、是枝監督の作品で主演を務めさせていただくのは初めてだったので、ワクワクする楽しみな気持ちの方が大きかったです。是枝監督なら、台本にとらわれずその場で生まれたものを自由に生かしてくださるという信頼があったので、安心して現場に飛び込めました。
――劇中では「藤野と京本」の特別な関係性が幼少期より描かれます。京本を演じるにあたり、お二人の空気感や関係性はどのように作り上げていったのでしょうか
根本的なキャラクター像は、原作を大切にしつつ演じました。撮影に入る前に、子ども時代役の二人と私、そして夏希ちゃんの4人で集まる機会があったんです。その時の子ども時代役の二人の雰囲気がすごく素敵だったのと、夏希ちゃんが引っ張ってくれる普段の私たちの空気感が、劇中の二人の関係性とすごく似ていて。なので、特別に意識しすぎることもなく、自然と子ども時代役の二人から「藤野と京本」の関係性を引き継いで築くことができました。

撮影以外の時間もずっと一緒――秋田で深まった2人の絆
――W主演を務めた出口夏希さんとは、現場でどのような時間を過ごされましたか
実は、役について深い話し合いをすることはほとんどなかったんです(笑)。ずっと秋田に滞在していたので、現場を離れても毎日一緒に晩ご飯を食べに行っていました。秋田県にかほ市に撮影終了の時間まで開けてくださる素敵なお店があって、そこに二人でずっと入り浸っていて。現場以上にプライベートで一緒に過ごす時間が長かったので、その距離感の近さがそのまま二人の絆に繋がったのかなと思います。
――秋田での撮影で、特に思い出に残っているエピソードはありますか
秋田に行くのは初めてだったのですが、冬パートからのスタートだったので雪の高さに圧倒されました。クランクインが「コンビニに向かう雪道を二人で歩くシーン」だったんですけど、膝上まで雪が積もっていて……! 必死に息を切りながら歩いて、撮影が終わるたびに二人で「はぁ〜、お疲れ様!」とお互いを労い合っていました(笑)。春夏秋冬、四季それぞれの表情が映像の中に綺麗に収められているので、そこもぜひ注目してほしいです。
――劇中では実際に黙々と漫画を描くシーンも印象的でした
撮影が始まる約4カ月前から、プロの漫画家さんに教えていただいて練習しました。元々絵を描くのは好きだったので楽しみにしていたのですが、京本が担当するのは背景画なので、定規やGペンなど専門的な道具を使うのは初めてで新鮮でしたね。ただ、漫画を描く作業は本当に奥深くて……趣味として描き続けるのはちょっと難しそうです(笑)。
京本は藤野に比べてセリフが少なく、しっかりと会話をする場面も数シーンに限られています。だからこそ、セリフ以外の部分――表情の変化や、絵を描く際の手の力強さなどで、彼女の内面にある成長や決意のグラデーションを表現できるように意識しました。

「なぜ演じるのか」取材を通して実感した俳優業への情熱
――作中では「どうして描くのか」という表現者としての問いも描かれます。ご自身は、俳優業への向き合い方を振り返るきっかけになりましたか
演じている最中は「なんで自分はお芝居をしているんだろう」と深く考えることはなかったんです。でも、取材などで「なぜお芝居を続けているんですか?」と聞かれる機会が増えて、初めて自分の原点を振り返りました。
幼い頃に母の勧めから始まった仕事ではあったのですが、節目ごとに母が「続けるかどうかは自分が決めなさい」と言ってくれていて。そこで自分自身で「続けたい」と選択してきました。一度も悩まずに「なぜやってるんだろう」と疑問に思わず続けられていること自体、それだけお芝居が好きな証拠なんだなと改めて実感しました。共演する方のお芝居によって自分でも知らなかった新しい一面を引き出してもらえる瞬間が、一番面白いですね。
――最後に、この作品を楽しみにしているファンへメッセージをお願いします
京本はコンビニの店員さんと話すことすら怖がるような子ですが、「もっと絵が上手くなりたい」「この“好き”という気持ちを信じたい」という一心で新しい世界へと飛び出していきます。自分の気持ちに素直に、人生を選んでいく彼女の真っ直ぐな強さから、観てくださる方にも一歩を踏み出す勇気を受け取っていただけたら嬉しいです。

取材・文=永田正雄
この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。
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