――以前、鈴木亮平さんが「吉之助と斉彬は似た者同士だった」とおっしゃっていたんですが、渡辺さんは西郷と斉彬に似ていると思いますか?
斉彬という人物は今まで、太っているわけではないんですけど、ふくよかで、いろんなものをスポンジのように受け止める温かい人っていうイメージで描かれることが多かったと思うんです。
でも、実際の生き様を見ていると、いろんなことを急いでいるという感じがすごくしたので、僕はその部分にエッジをきかせて演じようと、中園(ミホ)さんと話しあって撮影に入りました。
演じてみて感じたことは、斉彬は関わる人が多くないんですよ。あんまり、なかなか僕(斉彬)が距離を詰めないというか、上下の距離感を大事に作ってきたんですね。
そんな中で出会う、西郷っていう男のものすごいストレートさと、直球でものを考えて、受け止めて行動していくっていうことに関してはすごく近いものを感じますね。
斉彬は「これは面白い、やれ」って言ったことに関しては(動きが)非常にスピーディーだし、とにかくすぐやる。
失敗してもその失敗を糧にしてどんどん先に進むっていう、発想の距離感みたいな部分も近いと思います。
ただ、西郷が斉彬に触発されて次の世代に向かっていくための、根源的なエネルギーは受け渡していきたいと思っているんです。
西郷がいろんなものを情報収集してくれる力は信じてたので、近いというか、斉彬がちょっと先に走って、彼がどんどん追いついてきているという感覚でした。
――薩摩から、斉彬の命で江戸に出てきた西郷を見て、成長を感じましたか?
変わらないことがすごいなと、僕は思っていました。
やっぱりポジションによって生き方を変えたりとか、世渡りがうまくなっていくところが普通あるんですけど、西郷はいろんなことを経験しても、変わらないっていうところが面白いなって思うんですよ。
そして、京へいったり江戸へ行ったりして、その中で変化していくものと、変わらない根っこのギャップ感っていうのが、彼の中では葛藤につながると思うんですけど、そこが面白いなと思いますね。
――渡辺さんと鈴木さんの関係性は、西郷と斉彬に似ている部分もあるんでしょうか?
彼もそんなに若造じゃないので、いろんなキャリアを積んできてますからね。
そんなにあれやこれや言いませんし、ただ見ていてたまに気になったことはすぐ言うようにはしていますね。(全部は)教えませんけど(笑)。
――出演が決まった時、渡辺さんは「俳優として基礎を育てていただいた大河ドラマに恩返しさせてもらう機会をいただきました」とコメントされていましたが、“大河ドラマで学んだ基礎”とはどんなものだったんでしょうか?
「どこを」って言えないくらい、基礎中の基礎を全部叩き込まれましたね。
立ち居振る舞いや、着物・よろいの着方も、刀がキャラクターによって差し方違うことだったり、ありとあらゆることのベースを教えていただきました。
逆に今は、所作の先生が僕に遠慮して言ってくれないくらい(笑)。すべてを学びました。
――大河ドラマの経験がなかったら、他のドラマや映画の出演にはつながらなかったと思いますか?
(なかったらということを)もう考えられないですよ。
もちろん別の場所で学ぶこともあるんですが、ここまで時間をかけて実践する中で教わるっていうことは本当にないですから。
だから今、出演しているメンバーは、ものすごい良いチャンスだと思います。
大河ドラマは、いろんなことを学ぶチャンスとして、これからもちゃんとやっていってほしいなと思います。
――最後に、来年還暦を迎えられる渡辺さんが、今後俳優として心がけていきたいことをお聞かせください。
40代くらいから、少しフィールドを広げて仕事をするようになって、「自分が何者か」ということを否定する必要がなくなったんです。
何ていうんだろう…渡辺謙ってこういう俳優なんだって思われることって、うれしくないんですよね。
だから「こんななの?」とか「あんなところまで行くの?」とかって言われるように、肉体的には昔はできていたことができなくなっていくことはあるんですが、精神的にはどんどんフットワークを軽くしていきたいと思っています。
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