「“殺人”と“不倫”は絶対に描きません」巨匠プロデューサー・石井ふく子が“ホームドラマ”にこだわり続ける理由
ドラマはやっぱり、温かく終わりたいですよね
──そして「渡る世間は鬼ばかり」は、現在も年に1回のペースでスペシャルが放送される人気シリーズとなりました。
「『日曜劇場』が1993年から連続ドラマの枠になることが決まって、私はあの枠では単発ものをやっていきたかったので、連ドラはできないってお断りしたんですよ。そしたら、編成部や営業部の人が来て、『じゃあ代わりに、別の枠で1年間の連続ドラマをやってください』と言われて。『企画は石井さんが考えてくださって結構です』って。それで、『日曜劇場』の『愛と死をみつめて』(1964年TBS系)でご一緒したことのある橋田壽賀子さんに脚本をお願いすることになりました。橋田さんは構成が上手いんですよね。『ありがとう』の平岩弓枝さんはセリフを書くのが上手いんですけど。
そして橋田さんと二人で、どんなお話にするか考え始めて。『ありがとう』や『肝っ玉かあさん』(1968年ほかTBS系)は父親がいない家庭の話だったんですが、今度は両親もいて、子供も5人…それも全部女にしちゃおう、なんていう風に決まっていきました」
──今でも幅広い支持を集めている「渡鬼」ですが、石井先生は、このドラマの人気の理由をどのように分析されますか?
「それぞれの仕事に就いて、それぞれの家族を持っている姉妹たちが、言いたいことを言い合うところがいいんじゃないでしょうかね。タイトルは『渡る世間に鬼はなし』っていうことわざが元になっているんですが、“周りがみんな鬼に見える”ということで、『渡る世間は鬼ばかり』にして。自分も鬼だから、相手も鬼に見える、という意味なんですよ。最近は『渡る世間は鬼ばかり』のほうが正しいことわざだと思ってらっしゃる若い方も多いみたいですけど(笑)」
──近年では「渡鬼」と、水谷豊さん主演の「居酒屋もへじ」(2011年~TBS系)を、それぞれ年1作のペースで制作されています。
「水谷さんとは『日曜劇場』の『トレード』(1988年TBS系)でご一緒しているんですが、その後しばらく、食事をご一緒するくらいのお付き合いが続いていたんです。でもある日、『そう言えば、仕事してないね』なんていう話になって(笑)。『居酒屋もへじ』は、『「相棒」(2000年~テレビ朝日系)とは全く違ったものをやろうよ』っていうところから始まったドラマです。『渡る世間』は本当の家族のお話ですが、こちらは血のつながりのない者同士が家族として一緒に暮らす物語。私としては、その違いが面白いなと思っているんですけど」
──石井先生がドラマを制作されるに当たって、何か決め事はあるのでしょうか。例えば、「これだけはやらない」と決めていることは?
「“殺人”は絶対に描きません。松本清張先生の原作をドラマ化したことはあるんですけど(「二階」1977年TBS系)、殺人が出て来ない小説を選びました。人が死ぬところは描かれますが、あれは心中であって殺人ではないので。
あと、“不倫”もやらないですね。不倫って結局、夫婦か不倫相手か、どちらかと別れることになるわけでしょう? 決して気持ちのいいものではないですよ。ドラマはやっぱり、温かく終わりたいですよね。今回の『あにいもうと』もそうですよ。最後は温かいですから」
──ちなみに、次回作の企画はもう考えてらっしゃるのでしょうか?
「いえいえ、私、そんなに頭の回転速くないですから(笑)。これからゆっくり考えます」