松岡茉優とは何者か?
「朝日と夏菜子は私の太陽だったの!」
高校時代を振り返り、松岡茉優はそう力説している。「朝日」とは元アイドリング!!!の朝日奈央、「夏菜子」とはももいろクローバーZの百田夏菜子。松岡とこの2人のアイドルは高校の同級生だったのだ。
21年ぶりに日本人監督作品としてカンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを獲得した「万引き家族」。その一家のひとりである柴田亜紀を演じたのが松岡茉優だ。世代を代表する若手女優でありながら、バラエティー番組などでも活躍する彼女がテレビで注目を浴びたきっかけは、朝ドラ 「あまちゃん」(2013年NHK総合ほか)だろう。アイドルグループ「GMT47」のリーダー・入間しおりを演じた彼女は、実生活でもアイドル好き。特にモーニング娘。の元メンバー・鞘師里保を“崇拝”し、朝日や百田への表現と同様に「モーニング娘。は太陽です。太陽の光を浴びなきゃ生きていけませんから人間は」と切実に語っている。彼女にとって、モー娘。を見ることは「光合成」だという(「土曜スタジオパーク」2016年6/11放送、NHK総合)。
彼女の芸能界のキャリアは8歳から。だが、「あってないようなもの」と自身の子役時代を自嘲する。籍はあるだけで仕事は皆無。10歳でドラマデビューを果たすが、本格的な芸能活動のスタートは13歳から2年間出演した「おはスタ」(テレビ東京)。この間もオーディションは受け続け、200回近く落ち続けた。時折得た役者の仕事をしても、「演技が嫌い」という思いのほうが強かったという。
中学の頃は、女子グループでつるみ、毎日髪を巻いて、化粧し、オシャレして“青春”していたが、芸能科のある高校に転校してから一変した。友達ができず、“孤高のキャラ”を気取ったら、ただの“ぼっち”になってしまった。教室ではどんなに面白いことがあっても笑わない。いつでも(授業中でさえも)明るく騒いでいた百田のことを「うるさいなあ、静かにしてほしいな」と疎ましくも思っていた。
転機が訪れたのは3年生のときだった。最後の文化祭の準備中、百田と朝日が「ゴリ子」と「ゴリ美」に扮した意味不明なゴリラの擬人化コントを突然始めたのだ。それを見た松岡は思わず笑ってしまう。「え〜っ、松岡さんって笑うんだぁ」。そこから、一気に仲良くなった。「ふたりがいなかったら、今のような私じゃなかった」と松岡は言う(「anan」2017年2/1号)。
この頃、松岡は、ボイスレコーダーを日記代わりにしていた。ある日、「もしかして私、お芝居好きなんじゃない?」と勝手に口が動いた。すると一気に演技が好きになった。かつて「演技が嫌い」と自分で思い込んでいたのは、「できないことに気 付きたくなかった」自己防衛だったと気付いた。もちろん、急に演技がうまくなるわけではない。だが、「できないことが楽しい」と思えるようになったのだ(「土曜スタジオパーク」=同)。
そんなときに出演したのが映画「桐島、部活やめるってよ」(2012年)だった。周囲を見下す女子高生・野崎沙奈を演じた松岡は鮮烈な印象を与えた。例えば爆笑問題の太田光が「バケモノみたいな女優が出てましたね。やけにうまい。うますぎて浮いちゃってんですよ」「あれは樹木希林レベルになるんじゃないかと思ったね」(「爆笑問題カーボーイ」2013年6/4放送、TBSラジオ)などと興奮気味に絶賛した程(時を経て「万引き家族」でその樹木希林と家族を演じたのはなんだか感慨深い)。
そんな彼女は「女版・八嶋智人」になりたいという。八嶋智人自身ではなく彼のポジションに憧れるという。すなわち、個性派俳優として存在感を保ちながらバラエティー番組でも活躍する位置だ。彼女のバラエティーでの振る舞いは明石家さんまも高く評価している。「ええ感性しとるよ、トークは。この子しっかりしとんなぁと俺は見てたんですけど。動じないし、状況に応じて言葉変えよるしね。やっぱりさすがと思った」(「ヤングタウン」2013年10/19放送、MBSラジオ)と。
いまや松岡茉優はドラマ・映画・バラエティーで太陽のように輝き、既に誰かの憧れの対象になっているはずだ。けれど今も彼女は“八嶋智人”に憧れ、モー娘。のライブ映像などを見て「光合成」をし、彼女たちの輝きを“養分”にしている。その憧れる力こそが彼女の源泉なのだ。
(文・てれびのスキマ)
◆てれびのスキマ=本名:戸部田誠(とべた・まこと) 1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』『笑福亭鶴瓶論』など多数。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」、WEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載も多数。2017年より「月刊ザテレビジョン」にて、人気・話題の芸能人について考察する新連載「芸能百花」がスタート
◆てれびのスキマ◆1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」「TV Bros.」やWEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載多数。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』『笑福亭鶴瓶論』『コントに捧げた内村光良の怒り』など。新著に『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』