歌手のさだまさしが毎回テーマを決めて、こよなく愛する時代劇を語り尽くす、時代劇専門チャンネルの名物企画「さだまさし時代劇スペシャル!」。第6弾でフューチャーされる、「暴れん坊将軍」でおなじみの松平健に、放送される作品のここだけのエピソードを聞いた。
松平さんというと「暴れん坊将軍」をはじめ、時代劇スターとしての印象が強いですが、最初は現代劇の役者を目指していたとか。
「そうですね。役者を目指すきっかけになったのは日活アクションが大好きだったことから。中でも石原裕次郎さんが憧れの存在でした」
時代劇の世界へと足を踏み入れることになったのは、やはり勝新太郎さんの付き人をされていたことが大きいですか?
「現場に付いていって、師匠(勝新太郎)のやることを見たり、聞いたりしてましたから、知らず知らずのうちに時代劇に興味を持つようにはなっていましたね」
今回放送される「座頭市物語 第23話 心中あいや節」は、その師匠である勝さんが主演で、監督も務められています。出演のオファーはおそらく勝さんから直接に入ったと思うのですが、そのときの心境は?
「素直にうれしかったんですけど、少しほっとしたところもありました。というのも、劇団に在籍中に勝先生とお会いする機会があり、『京都に来れるか?』と言われて勝プロダクションに入った経緯があったので、私としてはすぐにでもお仕事がいただけると思っていたんです。それが付き人として現場に行く日々が半年続き、もしかしたらこんな毎日が永遠に続くのではないかと不安がよぎり始めたころ、出演のお話をいただいたんです。そこでひと安心というか、やっと自分も役者として前進できる日が来たかという心境でした」
浅丘ルリ子さんの相手役といういきなりの大役でしたが。
「やっと出られると喜んだのもつかの間、浅丘さんの相手役と聞いてもう緊張しましたね。こっちは本当に新人俳優ですから。『あの浅丘さんとご一緒するのか』と一気に身が引き締まりました」
しかも、勝さんが監督。現場でアドリブを入れる、脚本があってないようなもので進めていくのは有名な話で、その点でも緊張したのでは?
「師匠は現場でよく『脚本なんていらない』と言っていました。脚本家の先生がそこにいるのに(笑)。脚本はあくまでベースでしかないと。また、その場に立って湧いてきたことを出すのが大切で、セリフも覚えてくるなと。そんなことを普段口にしていらっしゃいましたが、なぜか私のときは前日にリハーサルをしてくれたんです。それでセリフもしっかりと覚えてこいと言われて。後から聞いた話ですが、私の出演に関しては反対意見が出ていたそうです。ただ、師匠が『俺が撮るから大丈夫』と言って周りを説得してくれたみたいです。ありがたい話です」
その師匠の妻である中村玉緒さんが「暴れん坊将軍Ⅱスペシャル 吉宗失脚!?初春一番の大江戸裁き!」では、松平さん演じる吉宗の母役で出演されています。
「玉緒さんが出演の際は、たまに師匠が現場に来られることがありました。すると監督そっちのけで演出し始めたりして(笑)。玉緒さんがスタッフの皆さんに気を遣われていたことをよく覚えています」
「暴れん坊将軍」シリーズは、今回の企画でもう1作品放送されるのですが、それがシリーズ屈指の異色エピソードとされる「暴れん坊将軍9 第19話 江戸壊滅の危機!すい星激突の恐怖」。江戸に彗星が落ちる危機が迫るというSF的ストーリーを、特撮も大胆に入れて描いたこの回は、今ネットを中心に若者の間で大きな話題を呼んでいます。
「私も最初に脚本に目を通したとき、『時代劇でこんなことありか?』と思いました。ただ、今となってこのように話題に上がるのですから、やって正解だったということでしょう」
時代劇というと殺陣(たて)が1つの大きな見どころ。「暴れん坊将軍」のクライマックスに用意された大立ち回りでの殺陣も、徐々に確立されていったと思うのですが、どの辺りで自分の手の内に入った感覚があったでしょうか?
「東映京都流の立ち回りは、舞い踊るような華麗さがあって。とにかくかっこ良く見せる殺陣なんです。『暴れん坊将軍』の吉宗の立ち回りは、そこにスピード感を取り入れていく感じで徐々に固まっていきました。最初はやはりぎこちなくて、相手とあうんの呼吸でできませんでした。しばらく苦労しましたが、何年かたったころ、玉緒さんから師匠が『健の殺陣がさまになったと言ってたわよ』と聞いて、一安心したというか。自分流の殺陣が確立できたのかなと思いました」
23歳で主役に抜擢された(※放送は24歳から)『暴れん坊将軍』は800回を超えるシリーズになります。ここまで長く続くと思っていましたか?
「始まることが決定したとき、プロデューサーの方は最低でも2年はやりたいとおっしゃってくださいました。でも、撮影所の中では『こんな作品、3ヶ月ともたない』という声が聞かれました(苦笑)。軌道に乗ると、いつの間にかその声は消えていましたけど。それで今度は長く続いてくると、『同じ役ばかりやっていると役者としてダメになるぞ』という声が出始めた(笑)。私自身は『そんなことはない』と思っていたので、気にも留めていませんでした。そういうことへの反発心がスタッフ・キャスト一同の結束を強めて、それがいい作品作りへつながり、結果として長く続くことになったのかもしれません」
最後に、今回放送となる「奇兵隊」「鬼平外伝 正月四日の客」をはじめ、数々の時代劇に出演されていらっしゃいますが、役者としての時代劇の醍醐味はどこにありますか?
「時代劇で描かれる世界を実際に見て経験したことのある人はいない。時代劇で描かれることはもちろん時代考証には基づいているのですが、ある種の空想で、未知の世界といっていい。ですから、いろいろと想像を膨らませながら役へアプローチすることができる。あれこれ自由な発想でその役を想像して、役を作り上げていける楽しさがある。私の時代劇で演じる醍醐味はそこにあります」
文=水上賢治 撮影=gaku
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