里見浩太朗が語る、継承してほしい時代劇の心得
東映で一時代を築いたスターにスポットを当てた、東映チャンネルの人気特集「ザ・東映レジェンド」。Vol.10となる今回は、「水戸黄門」でおなじみの時代劇スター、里見浩太朗が登場する。芸歴60年。現在も第一線で活躍する大スターに、長きに渡るキャリアと今回放送される作品の数々を振り返っていただいた。
まず、今回の特集は、里見さんのキャリアの中で東映のスターとして活躍した時代に焦点をあてたもの。東映で過ごした日々を振り返ってどんなことが思い起こされるでしょうか?
「歌い手を目指して上京したのが、ひょんなことから東映のニューフェイスを受け、運よく合格して。そこで合格者は現代劇をやりたければ東京、時代劇をやりたければ京都とどちらかを選択することになったんですけど、自分は経済的理由でたまたま京都を選んだ。そんな偶然が重なって、いまの自分がある。ほんとうに人生とはわからないものです。振り返ると東映での日々は確かに苦労もあったと思うのですが、いまとなってはすべていい思い出です」
デビュー2年ほどの1958年の『金獅子紋(きんじしもん)ゆくところ 黄金蜘蛛(おうごんぐも)』で映画初主演。翌年の『いろは若衆 ふり袖ざくら』では美空ひばりさんと共演されています。
「もともと歌い手を目指していた僕にとっては、ひばりさんはもう雲の上の存在というか。もう別世界の人で。その人と一緒に映画に出ているというのが不思議でした。ありがたいことにひばりさんにはかわいがっていただいて、僕は姉上と呼ぶぐらいで。姉弟のような仲でした。この映画では劇中の挿入歌をひばりさんと一緒に唄うことになって。それも感無量でしたね」
2010年に三池崇史監督によってリメイクされて脚光を浴びた1963年の『十三人の刺客』には、どんな思い出が?
「この作品には、忘れられないセリフがあるんです。僕が演じた島田新六郎が戦いに行くとき、丘さとみちゃんが演じるおえんとの間に交わす会話なんですけど。おえんが『お前さんいつお帰りに?』というと、新六郎は『早ければ2~3日後、遅ければ次のお盆だ』と返す。ようは『死んで帰ってくる』と。なんとも切ない別れのシーンで。こういった『粋』が詰まっているのが時代劇のすばらしさ。このシーンは自分が納得するまでやり切りたかったので、工藤栄一監督に願い出て、何回も撮ってもらいました。監督に『フィルム代はバカにならないんだぞ』と渋られながらも(笑)」
同じく1963年の作品『十七人の忍者』は、撮影が過酷だったのではと察するシーンがいくつもあります。
「一番大変だったというか嫌だったのは、お堀の水中から静かに上がってくるシーン。京都の二条城のお堀で撮影したんですけど、みなさん察しがつくと思いますが、まあ、臭いもすごいし入れたもんじゃない(苦笑)。その水中に潜って20秒がまんしてあがってきてもらいたいというのが監督からの指示。しかも最後に目を見開いて現れてほしいと。これには参りましたよ。あと、共演した近衛十四郎さんと僕はすごく親しくさせてもらっていたんです。同じ釣り仲間で共演も多かった。近衛さんの殺陣は剣の振り方が独特でとにかく絵になる。のちに、彼の息子である(松方)弘樹の殺陣をみたら、これがそっくりで。亡き近衛さんの姿がだぶってみえたことがありました。その弘樹も昨年亡くなって、寂しいですよ」
その後も次々と時代劇に出演していくわけですが、現代劇への出演に切り替えるようなことを考えたことはなかったのでしょうか?
「当時、考えないことはなかった。現実として東映は任侠路線が軌道にのっていましたし。着物をきたヤクザという役だったらまだいけた気がします。でも、任侠映画のヤクザが背広にピストルが主流となったとき、思いました。『これは自分には似合わない』と(笑)」
長く時代劇スターとしてご活躍されてきて、時代劇の現状をどうとらえていらっしゃいますか?
「さまざまな理由があるのでしょうが、時代劇が作られる数が減ってきているのは正直なところ残念です。それにも増して残念なのが、殺陣や所作といった時代劇のひとつの型や様式美が、若い世代へとうまく継承されていないこと。これは大きな問題。このままでは時代劇が出来なくなってしまう。ただ、受け継ぐ側である若い世代を責めることはできない。きちんとしたことを教えてくれる人がいないんですから。僕らが若い頃は、長谷川一夫先生をはじめ時代劇を熟知した諸先輩方がいて、目の前で最高のお手本を見ることができた。立ち姿から振り向き方、ちょっとしたしぐさまでどこか色気があって粋でかっこいい。それを実際に見て学ぶことができた。でも、今はそういうことを教える方がいない。僕は『水戸黄門』をやっていたとき、助さんを演じた原田龍二くんらにまずこう言いました。『ふだんから浴衣をきなさい』と。着物ひとつとってもふだんからなじんでないと、やはり体になじまないし、着こなせない。なじんでないと粋な姿にはならない。こうした長く受け継がれてきた時代劇の心得は残していきたい。僕は頼まれたらいつでも教えにいく準備はできていますよ(笑)」
では、里見さんにとって時代劇の魅力とは?
「たとえば司馬遼太郎さんの時代小説を読むと、頭の中で勝手に想像しますよね。主人公はこんな2枚目でかっこよくて、娘さんはこんなかわいい子で、悪役はこんな怖い顔をしていると。それを映像にしたのが時代劇で、いわば我々が勝手に想像した夢物語なんです。そのひとつの夢の世界を通して、現代から300~400年前の誰も見たことのない時代と人々に思いを馳せることができる。それが時代劇の魅力ではないでしょうか」
文=水上賢治