「おっさんずラブ」3監督座談会・後編! でこチュー、別離、プロポーズ…名場面の舞台裏を告白【ドラマアカデミー賞】
名場面プレーバック:第7話、春田から牧へのプロポーズシーン (瑠東監督)
――最終エピソードの第7話、春田が牧に「結婚してください」と言うシーンはどうしてあのロケ場所(江東区の橋)になったのでしょうか? また、台本には抱き合った後、少し会話がありましたが、放送ではなくなっていました。
瑠東:まず場所ですが、僕にとっては単発版あっての最終話なので、春田と牧が抱きしめあったのは、単発版のラストで春田と長谷川(落合モトキ)がキスした場所とほとんど同じエリア、目と鼻の先のところを選びました。やはり「おっさんずラブ」という同じ世界観というか、そこに意味を持たせたかったんですね。
台本にあった抱き合った後の会話は、現場でまず春田が「牧が好きだー」と叫ぶ場面を撮影し、橋を渡って次のセリフを…と思っていたら、圭さんがものすごい感情的な芝居で突然遣都くんにぶつかっていって。まだカメラも構えていなかったけれど、そこにいるみんなが心を持っていかれたんです。あんなプロポーズされて抱きしめられたら、もう牧は何も言えないよね。「ただいま」「おかえり」だけでいいじゃんって、自然にすごくシンプルになりました。
――教会から走ってきた春田は片方の靴が壊れてしまい、その靴を持って走ります。「シンデレラ」がひとつのモチーフとなっているのでしょうか?
瑠東:おっしゃる通りです。「シンデレラ的な、2000年代の月9やトレンディドラマ的な、王道シーンをきちんとやりたい」とのことだったのですが、女性はハイヒールだけど、男性で靴底が壊れるって普通ありえないじゃないですか(笑)。そこは難しかったんですが、どうしたら面白く撮れるかなと考えました。「結婚してください」の場面では「春田が靴をいつ離すのか」という問題があったんですけど、そんな事がどうでも良くなるくらい、心が動く芝居になったので、気付けば結局圭さんは最後まで靴を手に握りしめたままでした(笑)。
「男性同士の恋というテーマについてキャストとスタッフみんなで一個の答えを出した」(山本監督)
――今回、最優秀監督賞を受賞されましたが、改めてこの作品で成し遂げたことはなんだと思いますか?
瑠東:脚本作りから撮影現場、編集作業まですごく密度の濃いものを作っているという感覚がありました。テーマとしては絶対的な“人間愛”があって、それをどう表現するかは難題でしたが、スタッフが1つになることでこうして視聴者に何かが伝わるんだという達成感がありました。
山本:プロデューサー陣や脚本の徳尾さん、圭さんを始めとする俳優部、そして僕たち監督というみんなで一個の答えを出したことに、感動を覚えます。僕らはただ真面目に男性同士のラブコメとして撮ったけれど、BL(ボーイズラブ)好きな人にもそうでない人もダブルで拒絶される可能性もあった。それがこんなに多くの人に受け入れられたというのは、本当に奇跡ですよね。
Yuki:僕も最初に企画を聞いたときは「BLは撮ったことないけど、撮れるかな?」とびっくりしました(笑)。でも実は全然そうじゃなくて、これは主人公の春田が自分の新しい可能性を開いていく物語。ものすごくピュアに人が人を好きになり価値観を超えていくドラマになったと思います。
瑠東:男性と男性の恋愛ということについては「まっすぐ撮る」という答えしかなかったですね。貴島Pが「女が男なだけでしょ。あと何が違う?」というポジティブな姿勢しかなくて、その価値観に準じる愛があって笑いがある。だから、誰も傷つけることがなかったのかな。
山本:貴島さんのすごいところは、メインの登場人物に嫌な人がいないんです。僕としては悪者がいないというのはちょっと不安でもあったけれど、それでちゃんとドラマが盛り上がった。
瑠東:いわゆるファンタジーじゃないですか。今回はそこをやり切ったのすてきだなと思っています。ドラマがブレイクするときってどこかが時代にフィットするものだろうし、そういうものが求められていたのかもしれません。
Yuki:とにかくクリエイティビティ(創造性)が優先されている現場で、自由に楽しく撮らせていただけました。また、視聴者の人たちに育ててもらった作品でもあって、Twitterなどの感想を見ていても、演出についてのコメントも多かった。さらに今、僕たちが撮っている作品も追っかけてくれて、「おっさんずラブ」をきっかけにみなさんが演出に興味を持ってくれたのがうれしいですね。
取材・文=小田慶子