「あいあい傘」との出合いに倉科カナ「29年間を認められた」

2018/10/29 07:15 配信

映画 インタビュー

【写真を見る】初共演となる倉科カナ(写真左)と立川談春は、25年ぶりに再会する親子を演じる撮影=永田正雄


親子の再会シーンのために


――談春さんは六郎を演じてみていかがでしたか?

談春:駄目だよね。(しゃべるのが本職の)俺にしゃべらせなきゃ。表情はできないし、「そこで寂しく笑う」とか、それも(台本には)書いてないんだからね。だから、どうするのかなぁ?って。

だって、誰が見ても(クライマックスは)最後のシーン(親子の再会)なわけじゃないですか。助けられたと言うと偉そうですけど。(さつきと)出会う前に玉枝さんが私を連れてきて、その後にさつきちゃんを連れてきて、二人が…知世さんとカナさんが見つめ合うシーンがあるんですけど、あれを見ていて「うわぁ、きれいだなぁ」って思った。

その後に「この蚊帳の中でやってください」って言われて。とにかく虫がすごかったんですけど、その蚊帳を使ったシーンも美しくてね。いくら落語家さんでも(役者と同じように)その気になりますね。

――談春さんの六郎も欠かせない存在でした。

談春:(六郎を演じる上で)「なんの準備もしていかなかったの?」と聞かれたとしたら、なんの準備もしていかなかったね。していかない方がいいんだと思っていた。この時代に、このエンターテインメントの時代に、この映画はワンテーマなんですよ。これを潔いと言うのか。かなり怖いことですよ。映画は7万円や10万円じゃできないんだから。あれ入れてくる、これ入れてくる、この人にはこういう人生があった、とか。本当にワンテーマ。

「会ってなかった親に会いに来た」「父親は最後まで知らない」「知らされた時にどうなるか」「その父親を許せるのか許せないのか」「それも考えてなくて何で会いに来たのか」、そこの枝葉まで、削ってのワンテーマでしょ? 僕は潔いと思いますよ。この映画の他の映画との違う特色はそこだと思います。

もう、私は倉科さんに付いていくって言ったらおかしいけど、「どういうふうに言ってくれるんだろう?」「それを聞いていて泣くだろう」と思ってた。

――それであのシーンが生まれたわけですね。

談春:(撮影が)終わった後だったかな? (再会シーンの)最初に「こんばんわ」って言われて、こっちも「こんばんわ」って返すんですけど、その俺の返した“こんばんわ”が「とってもすてきでしたよ」って(倉科さんが)言ってくださったんですね。

それで(自分は)OKって思った。それから先は申し訳ないけど知らない。映画を作ることに命を懸ける人がいて、誰を映画に出すかに懸けているんでしょ? それで役者が動けなかったら、それは選んだ方の責任だよ、と。

――あとはお客さんがどう感じてくれるかですね。

談春:「今年一番泣ける映画」と言っているけど、それがストライクの人もいれば、その球だからボールになる人もきっといるはずです。でもね、「何でそうなの?」と言ったら、これは本当にワンテーマなんです。そこは、スタッフを含めて関わる人全てがスリルを持って懸けているので。もし、縁と時間と、ちょっとのお金があったら、その懸けに乗って(見に来て)くれませんか?って。損はさせないと思います。

どんな年齢の方が見るのか分からないけど、見終わった後に「ちょっと親に電話してみようかな?」とか、逆に子供にお父さん、お母さんから電話を掛けても良いんじゃないのかな。すごく時代錯誤な言い方かもしれないですけど、メールではなく電話をしてほしいね。そこの体温のやり取りだけあれば、儲かるか儲からないかは分からないけど、この映画は成功ですよ。

倉科:そうですね。

談春:妙な言い方ですけど、これは倉科カナじゃないと演じられなかったんだろうなって思うし、おそらく(監督は)その境遇を知らないでオファーをしていると思うから、これは運を持っている映画だと思います。

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