「10年後に『あの時の東京の街はこんな感じだったよな』と話せるような作品に」
――役作りで苦労した点はありましたか?
「今回に限らず、僕は役作りのために特別何かをするということはあまりなくて。監督やスタッフ、共演者が変われば、自然と違うものが出てくるだろうと思っているので、そこに身を任せている感じです。現場で監督から何かリクエストされたら、できるかどうかは分からないけど、『分かりました』と即座に応えられる態勢でいたいなと。どんな時も柔軟性は持っていたいですね」
――「膨大な顔の海で、俺は溺れている…」という白戸のモノローグが印象的ですが、演じながら、そういう感覚を味わう瞬間はありましたか?
「そういう感覚を味わうというか、理解できました。仕事とプライベートの境目が分からなくなってしまうというか。白戸は、常に人の顔を見ていて、見当たり捜査員という職業柄、『あいつは指名手配犯かもしれない』と思いながら仕事をしている。仕事を離れたときでも、街を歩けば、いやでも人の顔を見てしまうわけで、絶対に気になると思うんです。だから、“顔の海に溺れる”という感覚は分かりますね」
――武監督の演出で印象に残っていることは?
「クランクイン前の本読みのときに、武監督が『この作品を通して、今の日本を、今の東京を切り取りたい』とおっしゃったんです。それはなぜかというと、平成ももうすぐ終わってしまいますし、その先には東京オリンピックの開催もある。様変わりする前の“今”を残しておきたいと。5年後、10年後にこのドラマを改めて見返したときに、あの時の東京の街はこんな感じだったよなと話せるような作品になればいいと思っています」
――確かに、劇中では再開発などで整然となっていく街とは違う、雑多な感じの街並みがたくさん出てきますね。
「新宿や横浜などでロケをしました。いわゆる、きれいすぎない場所。細い路地や、今にも倒れそうな建物が印象的で、作品の世界観を作り出していると思います」
――脚本を拝読すると、白戸たち見当たり捜査員が食事をするシーンが多いような気がするのですが。
「武監督は、どこかドキュメンタリーのような作品にしたいということも話していたんです。どこか生きた心地がしないような状態で働いている白戸たちだけど、そういう追い詰められた精神状態の中でも、人間はお腹が減ったら普通にご飯を食べる。そういったリアリティーを表現する上で、食べるシーンを大事にしたいと。とにかく、ひたすらガツガツ食べてほしいと言われました。それが、白戸たちが生きている証拠になりますから」