――母の死を機に範子は“正義のモンスター”となってしまいますが、人間はそこまで急に変われるものだと思いますか?
範子は母親に支配され続けてきた人で、自分で判断する、選択するっていうことをしてこなかった人なんですよね、きっと。すべての判断基準は母親で、母親に従うことが絶対で、“自分”というものを押し殺してきた人だと思うんです。
それが嫌で、自由になりたくて門限を破ったんですけど、その結果、母親を死なせてしまったことがトラウマになっていますよね。
そのトラウマから自分を守るというか、逃れるために「母親が死んだのは私のせいじゃなくて、母親がルールを破ったせいなんだ」と、そして「ルールを守っていれば母親は守られた」「母親の言うように、法律を守り正しく生きれば、法律は私を守ってくれる」、最終的に「母親は正しかった…」そう思い込むしかなかったんじゃないかと思います。
(母親が亡くなった後)最初は、きっと、自分を支配していた大き過ぎる存在がいなくなったことで、歓喜したとは思うんです。つかの間の自由は味わったと思うんですが、それまで支配され続けてきたことで、範子の中には“自分”というものがない。自分の意思で選択したり、判断したりができない中で、結局、母親の判断基準である法律にすがったというか。自分自身を正当化するため、強く在るために、法律に守ってもらったんだと思います。
転校先で出会った“家族”とも言える友人たちは、範子としては初めてできた家族。だからとても大事に思っていて、絶対に失いたくなくて…。実の母親のことは、家族だなんて考えたこともないと思います。切っても切れない血の繋がりを恨み、呪っていた、という方がしっくりきます。
友人たちを守りたいからこそ、「私を守ってくれている法律でこの4人を正して、導いてあげなきゃ」と思ったんじゃないかな。だから、法律は範子にとって、範子自身や大事な家族を守り、心穏やかでいられる“世界一安全な家”なんだと思っています。
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