<試写室>「前略 めぐみちゃん―」横田さん夫婦の過酷な戦いに涙が止まらない
独断と偏見のレビュー
ドキュメンタリーとドラマを織り交ぜながら進行していくこの番組を通じ、ドキュメンタリーだけでもない、ドラマだけでもないからこそ、娘の帰りを待つ横田さん夫婦の気持ちが痛いほど伝わってくる。
今でこそ「拉致問題」という事件は世に知られているが、当初は失踪や自殺、家出などとも考えられていた。めぐみさんが失踪してから北朝鮮に拉致されていたと分かるまで、何と19年2カ月。こんなにも長い間、横田さん一家はあてもなく探し続けていたと知り、呆然とした。
番組では、平凡な日々を送る横田さん一家に前触れもなく襲った“拉致”という悲劇が、菊池と勝村の熱演で鮮明に表現されている。
私はこのドラマを見るまで、早紀江さんに対して“強い”という印象を持っていた。しかし、実際は弱い部分もあり、ただひたすらに娘の無事を祈る母親なのだ。「会いたい」ですらない、「生きていてほしい」という言葉に、その思いの重みを感じる。
そして、滋さんの強さも目を引いた。娘が北朝鮮に拉致されたという事実を突きつけられてもなお、娘に会いたい一心で世間を動かし、家族会を引っ張ってきた彼は、間違いなく拉致問題の進展に欠かせない存在だ。
特に滋さんの強さを感じたのは、拉致被害者5人が帰国するシーンだ。横田さん夫婦はめぐみさんの帰国がかなわず、とてもつらい気持ちだったはずだ。しかし、滋さんはそんな表情は見せず、再会を果たした家族たちを得意のカメラで撮影し続けていた。
そんな夫婦の強さと弱さが最も鮮明に浮かび上がったのは、めぐみさんが拉致被害者だと判明した直後、それを実名で報道するかを巡って意見が分かれるシーンだ。報道しないでほしいという早紀江さんの意見と、報道することで戦っていきたいという滋さんの意見は対照的だが、めぐみさんを思う二人の気持ちは同じだった。
菊池と勝村が演じる横田さん夫婦の40年を超える戦いは、先の見えないつらいものだ。生半可な気持ちでは演じられないストーリーだと思うが、二人の体当たりの演技によって、夫婦がこれまで感じてきた気持ちや真実が伝わる番組になっている。
現存している拉致被害者の親は、横田さん夫妻と有本恵子さんの両親の4人しかいないそうだ。「これが本当に最後のチャンス」と言い切る彼らの、悲痛な思いが伝わってくる。
一人でも多くの人がこのドキュメンタリーを通じて、「生きているうちに会いたい」という彼らの気持ちを感じてほしい。拉致問題解決への機運が高まる今、それが私たちにできる第一歩なのではないだろうか。
文=R
3月30日(土)昼3:30-5:30
フジテレビで放送
出演(ドラマ)=菊池桃子、勝村政信 ほか
出演(ドキュメンタリー)=横田滋、横田早紀江、蓮池薫 ほか
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