『空飛ぶタイヤ』映画&ドラマ版一挙放送! 池井戸潤の映像化作品はなぜ日本人の心を熱くさせるのか<ザテレビジョン シネマ部>
ベストセラー作家、池井戸潤が執筆し、2006年に刊行された小説『空飛ぶタイヤ』を実写化した映画版とWOWOW連続ドラマW版が、5月に一挙放送される。池井戸作品といえば、「下町ロケット」や「花咲舞が黙ってない」「陸王」など、ドラマ化されるたびに高い評価を得ており、もはや「池井戸原作ドラマにハズレなし!」と言っても過言ではないほど、映像化との相性が良い作家としても知られている。
池井戸作品が、かつてないほど注目を集めたのは、なんといっても2013年のドラマ「半沢直樹」だろう。流行語にもなった「倍返しだ!」という決めゼリフと、インパクトのある俳優たちの"顔"のアップで展開される小気味良い演出が、そして、巨大企業を舞台にしながらも、まるで少年漫画のような勧善懲悪によってもたらされるカタルシスが、このドラマにおける最大の特長だ。
もちろん『半沢直樹』で沸き起こった空前の一大ブーム以前から、池井戸作品は映像化されていた。ドラマ版の「空飛ぶタイヤ」は、いまや大人気シリーズとなっているWOWOW連続ドラマWのシリーズ第3弾として2009年に放送されたもの。実際に起きた"三菱自動車のリコール隠し事件"に着想を得て書かれた小説をベースとしたこのドラマは、放送当時も巨大組織の暗部とそれに立ち向かう人々を描いた、本格的社会派ヒューマンサスペンスだ。本作は視聴者から圧倒的な支持を得たばかりでなく、日本民間放送連盟賞番組部門テレビドラマ番組最優秀賞などを受賞した。
発端となるのは、運送会社のトレーラーが走行中、突然タイヤが脱輪し、歩道を歩いていた母子を直撃したことによる死傷事故だ。運送会社社長の赤松(仲村トオル)は、車両の整備不良を疑われて家族もろともバッシングを受ける。だが、赤松は社員の適切な整備を信じ、事故の再調査を訴える。一方、トレーラーの製造元であるホープ自動車のカスタマー戦略課長を務める沢田(田辺誠一)は、赤松からの訴えをきっかけに、社内のリコール隠しの実態をつかみ、常務の狩野(國村隼)らによる悪質な不正を暴くために、仲間と内部告発を企てる。そこに銀行マンや週刊誌記者らの思惑が絡み、事態は真相解明へと進んでいく。
ドラマ版では、主演の仲村トオルをはじめ、田辺誠一や萩原聖人に國村隼、そして今は亡き大杉漣といったそうそうたる役者陣が名を連ねており、初放送から9年を経た現在見直してみても、まったく古びるところがない。トータル5時間を超える全5話の構成で、事件の真相解明をベースにしながら、長年明るみにされてこなかった巨大企業の卑劣な隠蔽体質と、自己保身に走ってしまう人間の弱さをじっくりとあぶり出していく。