最後に紹介するのは、ジョナサン・エイムズの短編小説を映画化し、第70回カンヌ国際映画祭にて男優賞&脚本賞を受賞した、ホアキン・フェニックス主演作。行方不明者の捜索を請け負う裏稼業で生計を立てる退役軍人が、誘拐された州上院議員の娘を捜し出す過程で不測の事態に陥り追い込まれていく姿を通し、人間の生への執着を描いた作品です。
多くを語らぬストーリー展開であるため、人によっては置いてきぼりを食う可能性があるかもしれない。だけど、幼少期や軍人時代のトラウマが原因で強迫観念の如く"死"に取り憑かれている男の葛藤に寄り添うことができたのなら、作品世界へと入り込むための糸口を見つけられるはず。カンヌで賞を取るに至った理由だって見えてくる。死に囚われているということは、裏を返せば"生きていたい"という証拠。裏社会に生き、心を許せる相手は年老いた母親だけ。親しい友はおらず、彼の心に触れられる者は他に誰もいない。極端な物言いかもしれないが、日の目を浴びることのない彼の生き方は、そこにいるのかいないのか、生きているのか死んでいるのか分からない。だからこそ母親の存在や、殺らなければ殺られてしまう環境に身を置くこと、時には自身の歯を無理矢理引っこ抜いてしまうことが、彼にとって"生"を実感するために必要な要素であったのだと思う。
しかし、母は年老いて余命いくばくもなく、順調であったはずの仕事も問題が生じ始めていく。劇中において人を殺めるシーンが俯瞰で描かれているのはきっと、主人公が一方的に人を殺すだけでは"生"を実感できなくなってきている表れ。不測の事態に陥り"死"の危険を感じ取った一瞬のみ男の動揺する様がハッキリと描かれるのがその証拠。数度にわたり描かれる謎のカウントダウンは、延命措置の繰り返し。朝起こしてくれる母親に「あと5分」と言い続けるかのように、死を選ぶことを絶えず先延ばしにしていたかのよう。たとえカウントが0になろうとも、再びカウントを繰り返す。もう1年、もう1カ月、もう1日、もう1時間、もう1分と、彼はひたすらあがき続けていたのだと思う。観る人を選ぶ作品であるとは大いに思いますが、ここに書かせていただきいただいたことを踏まえて観たのなら、生きていくことの難しさや生きている限り希望は残されていること、全てに絶望した時にこそ死が訪れるのだということを感じ取りながら観られるのではないかと思います。
楽しい作品、重い作品、難解な作品。それぞれタイプの異なる3本の作品と共に、ぜひ素敵なWOWOWライフをお過ごしください。
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