<スピードワゴン小沢一敬映画連載 このセリフに心撃ち抜かれちゃいました>第4回 『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
──先ほどおっしゃったようにこの映画は実話がベースになっていますが、ビリー・ジーン・キングは女性や性的マイノリティーの権利のために闘い続けてきた人です。では今回、小沢さんがシビれた名セリフはなんでしょうか。
小沢「時代は変わる。今、君が変えたように」
(※ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください)
――ビリー・ジーン・キングに対して、彼女をずっとサポートしてきたゲイのスタイリストのテッド(アラン・カミング)が言うセリフですね。彼女がボビー・リッグスから歴史的な勝利を収め、人々が歓喜に沸いている映画のラストです。テッドが「おいで。みんなが君を待ってる」と声を掛けると、彼女は感極まって涙ぐみながら「心の準備がまだ」と言い、テッドの名セリフが続きます。
小沢「“時代は変わる”という言葉について、俺の中では思うところがいろいろあって。元THE BLUE HEARTSで現ザ・クロマニヨンズのマーシー(真島昌利)の昔のソロの曲『夕焼け多摩川』に『誰かが歌ってる 時代は変わる それなのにこの場面 以前(まえ)にも見たよ』っていう歌詞があるんだけどさ、俺、“時代は変わる”って言葉を聞くと、いつもそれを思い出すの。『時代なんて何も変わってねえよ』って。もちろん、環境的な部分では変わってるんだけど、人間の本質的な部分は人類の歴史が始まった時から何も変わってないのよ。大昔から今日までずっと、誰かが誰かを好きになったりヤキモチ焼いたりしてる。ずっと変わってない。だけどみんな『きっと時代は変わるんだ』と思いたいんだろうなって」
──たぶん「変わる」と思ってないと前へ進めないというか。“時代は変わる”という言葉が、一種の希望なんだと思うんですよ。
小沢「そう、それなんだよ。決して時代は変わらないんだけど『変わろう』『変えよう』と思うことが人間の生きる理由なんだよね。ただ、マーシーと同じザ・クロマニヨンズの(甲本)ヒロトは、『時代を変えようっていうのは、すべてを諦めたやつが言うんじゃねえの? 自分が頑張ってたら、必ず変わるんだから』って言ってたのね。まさにその通りで。だから俺も『時代は変わる』なんてことをいちいち言う必要ないと思ってるんだ」
──でも、この作品はそのセリフが重要な場面で出てきますよね。
小沢「この映画では、彼女たちは自らの力で女性の“自由”を勝ち取ったわけだから。日本語の“自由”って英語だと2種類の言葉があるでしょ。“何をやってもいい”って意味の“Freedom”と、“権利の獲得” や“解放” の意味で使われる“Liberty”。つまり“Liberty”は、闘って勝ち取った“自由”。だから、その“Liberty”のための第一歩を踏み出したという意味で、あの場面で『時代は変わる。今、君が変えたように』というセリフは絶対に必要だったと思う」
──観客へのメッセージとして、必要だったと。
小沢「そうそう。観てる人たちに『彼女たちは時代を変えたぞ。じゃあ、君は何をする?』って呼び掛けてるわけだからね。プライベートで俺はこんなセリフは絶対に言わないし、言ったところで誰にも響かないけどさ、これが映画のセリフとなると、『じゃあ、私は何をすればいいんだろう?』って考える人も出てくるから。そういう意味で、私生活の言葉と映画の言葉はまったく別のものだと思うし、このセリフは映画の言葉として、とてもいい言葉だよ」
──他に気になったセリフはありますか?
小沢「いろいろあったんだけど、ちょっと面白かったのは、女性同士のベッド・シーンの後に、『あ、これ』っていう冷めたセリフで落ちてた眼鏡を相手に渡すところね。始まるときはムーディーに始まるくせに、コトが終わると男も女もドライなんだなって思ったよ(笑)」
小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
取材・文=八木賢太郎