天才・阿部サダヲに「あらぁ、この子も人間なんだな」
――田畑さんと松澤さんのコンビプレーがとても印象的ですが、阿部さんとのお芝居はいかがでしょうか?
大人計画の舞台だと、阿部くんはツッコミの役が多いんですよね。主役の阿部くんが、変な登場人物たちにツッコんでいくっていう。今回は阿部くんが一番変ですからね(笑)。ものすごく新鮮です。
阿部くんはツッコミの人だと思われているかもしれないけど、本当はボケたい人だと思うんですよね。だからとても生き生きしてました(笑)。
印象に残っているのは29回(8月4日放送)の、メダル至上主義になっていく田畑さんに対し、昔から一緒にやってきたベテラン選手がかわいそうじゃないかと松澤さんが初めて歯向かう場面ですね。
田畑さんには「メダルを取ることによって日本を明るくしたい」という熱い思いがあって、それを知った松澤さんが「誤解してた。まーちゃんゴメン」って和解するんですけど。実は僕、このシーンで泣こうとしてたんです。盛り上がるじゃんって思って。
僕は芝居で1回も泣いたことがないんですけど、ちょっと涙でも出してみようかなと(笑)。初涙の相手が阿部くんなんて、最高じゃないかと。もうね、意気込んで撮影に臨んだんですけど、全然泣けなかったです(笑)。
のちのち冷静に考えたら、別に泣く必要もなかったし、なんだったんだろう、あの時の俺。まぁでも、お互いに腹を割って本心を語るみたいなシーンだったので、やっていてすごく照れくさかったですね。「あー目合ってるなー」って思いながら、ええ、恥ずかしかったです(笑)。
――お二人のシーンでは事前に相談などはされるんですか?
ないですね。なんとなく流れでやっています。長年一緒にやっているので、こんな感じかなって想像しながら台本を読んで、現場で合わせていくって感じです。
だから阿部くんに、さっきのシーンの撮影の後に「俺、実は泣こうとしてたんだよ」と話したら、「うそだろ!?気持ち悪い」って言われましたよ(笑)。
――あらためて長年お付き合いのある阿部さん演じられる田畑の魅力を教えてください。
田畑さんのとにかく多いせりふを、阿部くんはどうやって覚えているの?って聞いたことがあるんですけど、彼は「黙読で覚えている」って言うんですよ。リハーサルの時に初めて、覚えたせりふを口に出すんですって。
それを聞いて本当にびっくりしました。僕なんかは何度も口に出して口にせりふをなじませないと不安で不安で(笑)。
あれだけのせりふを黙読で覚えて、瞬発力で演じていくというのは、肝が据わっているっていうか、しかもその状況を楽しんでいる感じもするし。でもね、そんな楽しめるようなせりふ量ではないんですよ(笑)。
やっぱり天才なんだと思います。あと「疲れた」とかね、阿部くんは言わないんですよね。僕なんかは「疲れた」「帰りたい」「おなかすいた」ってすぐ言っちゃう(笑)。
だから、過酷だった日本泳法の撮影が終わったとき「死ぬかと思った」って阿部くんが言っているのを見て、あらぁ、この子も人間なんだなって思いました(笑)。
――脚本を務めている宮藤さんとは出演するに当たり何かお話したことはありますか?
「痩せてくださいって言われたんですよ」と伝えたら、宮藤さんに「そんなに痩せなくても、おなかを引っ込めればそういう感じに見えるんじゃない?」とか言われて(笑)。
ダイエットを始めた時期が、ちょうど宮藤さんの舞台の本番と重なっていたんですよ。
楽屋でせっせと野菜を食べてたら、宮藤さんに「この舞台中に痩せられると困るよ」とか言われて、もうね、あなたは何を言ってるの?って思いました(笑)。
――宮藤さんの作られたこの作品の魅力はどこだと感じていますか?
えーと、“敗者”に光を当てた作品だと思うんです。あらためて、宮藤さんって優しい人なんだなって思いました(笑)。僕は宮藤さんとも長い付き合いですが、演出家としての宮藤さんって昔はすっごく怖かったんです。笑いに対するこだわりも強いし、とにかく稽古は厳しかったですね。最近はだいぶ丸くなりましたけど。ここで言うような話じゃないか(笑)。
なんだろう、田畑さんは人に対して結構ひどいことばっかり言ってますけど、愛嬌(あいきょう)があるから許せるっていうか、誰も傷つかないっていうか。宮藤さんの作品って、主役とか脇役とか関係なく、どのキャラクターにも愛嬌があるんですよね。これってすごいことだと思うんですよ。宮藤さんの愛を感じます。
そんなわけで、引き続き「いだてん―」をよろしくお願いします(笑)。