「一歩踏み出す勇気は志ん生から教わったんじゃないかな」
――台本を読まれての感想を教えてください。
まず台本を読んで思ったのは、「うわっ!ここに引っ掛けてくるんだ!」と、伏線をここで回収してくるのか、という宮藤官九郎さんの脚本のすごさですよね。だから、本当は(放送より先に)台本を読みたくなかったんです。
僕は本当に「いだてん―」のファンなので毎週欠かさず見ていますし、兄から「先にDVD見る?」とか言われるんですけど、絶対見ないでリアルタイムで見ているんです。先のことについてあまり聞きたくないし、台本も読みたくなかったんですけど、さすがに出演者だから読まないといけないなと思って読みました。
勝(仲野太賀)に関しては、畑は違えど戦火の中、日本を離れて異国で頑張っているという状況で芽生える人間の絆というのを感じますね。
また、孝蔵さんに関しても、互いに仲良くなかった2人がこの期間で人間としても落語家としても認め合う、尊敬し合うようになったのは、こういう状況だったからなのだろうなと。
1話という短い中ではありますが、そういう流れがちゃんと見えるように演じたいなと思っています。
実際に、志ん生(孝蔵)さんも圓生さんも東京に帰ってきてから芸が深まったって言われているので、慰問興行中の苦しさや、苦しさの中にもあった希望を見せられたらなと思います。
――孝蔵役の森山さんとのご共演はいかがですか?
未來くんは舞台を見に行くこともあって、大好きで尊敬する役者さんです。
今回の「いだてん―」でも実は1部と2部通して一番出ているのは孝蔵さんじゃないかって話をしていたんですよ。落語も孝蔵のキャラクターをつかんだ落語で、グッとくる場面が多いですよね。
作中には圓生がどんどん志ん生を認めていくという描写がありますが、僕は未來くんのことは最初から認めているので! 映像の世界でも先輩なので、胸を借りるような気持ちです。
――七之助さんが抱く圓生さんのイメージや印象を教えてください。
芸事が達者というイメージがあります。落語だけでなく義太夫だったり踊りも得意だったりして、芸をすることが好きだったんでしょうね。
その中で落語を選び、落語をやっていく中で、義太夫をやっていた経験を生かして女方をやったらすてきだということも自負していたんだろうなと。圓生さんの落語は志ん生さんのとは持ち味が違うのですが、圓生さんは志ん生さんのことを認めているようで、最初は認めてなかったんでしょうね。
井上ひさしさんの作品「圓生と志ん生」の中で、圓生さんは志ん生さんに「落語が面白くないよね、きちっとしすぎだよ」というようなことを言われるんです。芸が身に付いているからこそ、志ん生さんのような型破りな芸風に対しての抵抗感があったりしたんだろうし、そこから一歩踏み出す勇気は志ん生さんから教わったんじゃないかなと思います。