映画通スピードワゴン小沢一敬が「年末に観るのにピッタリ」と語る映画とは?<ザテレビジョンシネマ部>
――そんな中で今回、小沢さんがシビれた名セリフは?
小沢「本を借りて返さんとは無礼の極みだ」
※編集部注:ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください。
――ハーバード大学を飛び級で卒業した天才少女キャリー(ベル・パウリー)には、大学時代に恋をしたハリソン教授(コリン・オドナヒュー)から深く傷つけられた過去がありました。そのことを知った父親(ガブリエル・バーン)が、娘が教授に貸していた大事な本を一緒に取り返しに行ったとき、帰り際に教授の顔面に強烈なパンチをお見舞いしながら言ったセリフですね。
小沢「これ、本当はお父さんは、本を返さないから殴ったわけじゃないんだよね。だけど、そこがお父さんの矜持であり、娘に対する父親としての優しさであり。決して感情に任せて殴ったわけじゃないよ、って見せるイギリス紳士っぽさだよね。まあ、何が紳士かは分からないけど、ああいうカッコ良さは好きだよね、俺は」
――本心では「うちの娘を傷ものにしやがって!」って言いたいところですよね。
小沢「だけど、そんなことを言いながら殴ったら身もふたもないから、あえて『本を借りて返さんとは無礼の極みだ』って。このシーンは映画の本筋のメッセージではないんだけどね」
――シャレてますよね、このお父さん。
小沢「シャレてるといえば、主人公のキャリーが、新聞の出会い系広告みたいなので知らない男と会うときに偽名を使うんだけど、その男が意外とインテリで、その偽名について『グロリア・パッチは登場人物だろ? 「美しく呪われし者」のさ』って見抜いちゃうシーンもいいよね。ああいうの好きよ」
――全体的にセリフのやりとりがシャレてるシーンが多いですね。
小沢「そうだね。キャリーが初めて教授の家に行ったシーンで出てくる、『世の中に存在する本を今から一生読み続けても、ほんの一部しか読めないな』っていうセリフも好きだよ。俺もめちゃくちゃ本が好きで、いつも本屋さんへ行って、読み切れないって分かってても何冊も買っちゃうのね。だから家には読んでない本がいっぱいあって、『いつか本当に暇になったら、これを全部読む』って楽しみにして生きてる部分もあるし、どうせ全部読み切れないからこそ、読んだ本からは必ず何かを得たいって気持ちもあるんだ」
――なんか、いろんなところにシビれてますね、今回は。
小沢「ほかにもたくさんあったよ。J・D・サリンジャーの本がキーになってるのもよかったし、クリスマスにキャリーが独り言で神様にお祈りするシーンもよかったし。クリスマスとか大みそかの物語だから、時期的にはピッタリの映画だよね。みんな毎年、年末になると、昔の俺がリストを作ってたように『来年こそは』って思うんだろうけど、現実にはなかなか動き出せないじゃん。そんなときにこの映画は、その背中をちょっと押してくれると思う。みんながキャリーのようにマイ・プレシャス・リストを作って、それを実行するように生きていったら、なんかいい世の中になる気がするよね。だって、そこには絶対に書かないはずだもん、『SNSで悪口をつぶやく』とか」
――たしかに。『悪口を書くのをやめよう』って書くはずですね。
小沢「このキャリーだって、頭がいいだけに最初は世の中に対して冷めてる部分があったけど、自分が目的を持って動くことで見方が変わって、世の中ってこんなに美しいんだって気付く映画だからね。それはみんなもまねしてみたらいいと思うんだ」
小沢一敬
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
取材・文=八木賢太郎