「ヴェノム」、「運び屋」が教えてくれる“ありのまま”でいることの難しさと価値<ザテレビジョンシネマ部>
“ありのまま”でいるために大切なこと。それはきっと、今ここにいる自分を認めてくれる他者の存在に気が付けること。ただ、劇中において彼を欲する者たちは皆、無事故・無違反の肩書や90歳という年齢、運び屋として稼いだ大金など、彼の人間性を何ひとつ求めちゃいない。
だが、彼の家族だけは違う。夫として、父として、祖父としての愛や良心など、彼の人間性を求めていた。しかし、今の自分では受け入れてもらえないと恐れを抱き、心の奥底にある想いを開示しようとしないアール。“ありのまま”と“わがまま”を履き違え、新たな一歩を踏み出せずにいた。
そうして“ありのまま”とは程遠い状況へ自らを追いやってしまう。そんな彼がデイリリーの花を好きだという。それは、開花したその日にしぼんでしまう1日だけの命しか持たぬ花。長年目の前の問題から目を背け続けてきた彼にとって、たった1日に全力を注ぐデイリリーの花のあり方は特別なものだったのかもしれない。
花の命と比べれば永遠のように思える人間の命だが、人間だって永遠には走れない。多くを失い、残り少ない時間を生きる年老いた彼だからこそ、ようやくデイリリーのあり方に近づき、本当は何とどう向き合うべきなのかをゆっくりと見据えていく。
僕たちがこの先の人生においていかなる道を歩むにせよ、一つの指針と結果をこの作品は示してくれる。華やかさはないけれど、“ありのまま”でいられることの価値を感じさせてくれる力強い作品です。また、花に始まり花で終わるところも最高にすばらしい。
『ヴェノム』(2018)
「ゾンビランド」シリーズ(2009、2019)のルーベン・フライシャー監督が、スパイダーマンの宿敵、ヴェノム誕生の物語をトム・ハーディ主演で映画化。地球外生命体に寄生された男の戦いと友情を通し、たったひとりでも理解者がいてくれることの心強さを綴る。
『運び屋』を観ることで、あなたはきっと“ありのまま”でいられることの大切さに気付く。とはいえ、すぐに実践できることじゃないのは百も承知。信じられる家族や友人が身近にいれば良いが、必ずしもそういった環境にいるとは限らない。荒っぽいが正義感の強いジャーナリスト、エディ(トム・ハーディ)もそう。
自業自得ではあるものの、孤立しドン底まで落ちてしまう。そんな折、未知の生物に寄生され、強制的に一つになった彼らの関係性から、“ありのまま”の想いを知ってくれている相手が、ひとりでもいることの救いを垣間見ることができるだろう。(本作はマーベル作品でありながらも、「アベンジャーズ」や「X-MEN」シリーズと直接的なつながりがないため、予備知識がなくても問題なく楽しめます。)