「ヴェノム」、「運び屋」が教えてくれる“ありのまま”でいることの難しさと価値<ザテレビジョンシネマ部>
寄生されたことでヴェノムに思考のすべてを読み取られてしまうエディ。裏を返せば、自分の本音を誤解なく聞き入れてくれる相手を得たといってもいい。まったくの他人に何を言われても、耳をふさげば済むし、無視もできる。どうでもいい相手の言葉など響かない。
だが、自分の思考をすべて把握して言葉を投げ掛けてくるヴェノムからは、良くも悪くも逃れられない。職を失い、恋人も失い、周囲からの信頼さえも失った男が最後にたどり着いたもの。それこそがヴェノムなのだ。数多くのリスクをはらみながらも、自身の心持ちを寸分たがわず理解してくれる仲間を彼は手に入れる。
ド派手なアクション・シーンも見応えたっぷりだが、徐々に構築されていく両者の関係性や、自分を理解してくれる存在がいることの心強さに胸打たれるものがあると思う。全員に理解されなくたって構わない。というより、そんなことはほぼほぼ不可能。どんなに孤独であっても、どんなに苦しくても、たったひとりでいい、心の内をさらけ出せる相手がいれば乗り切れることが人生には無数にある。
そんな生きていく上でとても重要な他者との関係性を、本作は教えてくれる。あなたが目にするのは非現実の世界ではあるものの、その理屈は僕たちが生きる実人生にいくらでも応用できるはず。
実話と虚構、出発点はまったく性質の異なる2作品に思えますが、その本質はとても近い。今この瞬間を生きる僕たちに大切なことを示す『運び屋』と、具体的な第一歩を示してくれる『ヴェノム』、ぜひセットでご覧ください。
文=ミヤザキタケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。