SF漫画「銃夢」がハリウッドで映画化されるまで―原作者と「タイタニック」のジェームズ・キャメロンの相思相愛<ザテレビジョンシネマ部>
OVA版『銃夢』はデル・トロのもくろみ通り、すぐさまキャメロンを魅了した。木城が創出した未来のユニークな世界観、卓越したストーリーテリングはもちろん、何よりキャメロンの心を捉えたのはヒロイン、アリータ(原作ではガリィ)のキャラクターだった。
キャメロンといえば、『ターミネーター』(1984)のサラ・コナー、『エイリアン2』(1986)のリプリーという映画史に残る最強ヒロインを描き出したことでも知られる。ただし、2人は最初から最強だったわけではない。ターミネーターとエイリアンの脅威にさらされ、生き延びるために否応なく強さを身に付けていったのだ。
一方、サイボーグであるアリータは、デフォルトは最強ながら、目覚めた時には心(自我)も記憶もなく、そこから自身が歴戦の戦士であったことを自覚していく。その両者の対比にキャメロンは強く惹かれたという。
加えて、強くたくましく成長していくアリータと、その頃ティーンエージャーだったまな娘の成長が重なったともキャメロンは述懐している。
木城のもとには映画化のオファーが複数寄せられていた。そんな中、キャメロンは日本へ飛び、木城に面会して直談判。「原作漫画は斬新で想像力に富み、最先端を行っている。ぜひ映画化させてほしい」と熱い思いを伝えた。
片や木城も「何回観たかわからない」と語るほどの『ターミネーター』&『ターミネーター2』(1991)の大ファン。相思相愛で映画化権はキャメロンに渡った。ちなみに、木城はロドリゲス監督も大好きで、お気に入りは『デスペラード』(1995)、『プラネット・テラー in グラインドハウス』(2007)、『マチェーテ』(2010)だとか。
キャメロンは脚本のほかに600Pにも及ぶ撮影用の覚書を準備するほどの熱の入れようだった。だが、折しも10年来温めてきた『アバター』の製作が現実味を帯び、最終的に彼は『アバター』(2009)を選択。本作はいったん宙に浮くこととなる。
2010年代に入っても、キャメロンは映画化を諦めたわけではなかった。
しかし、相変わらず多忙を極め、今度は『アバター』の続編の話が浮上する。ここに来てキャメロンは、信頼できる監督に『アリータ~』を譲ろうと、旧知のロバート・ロドリゲスに打診。快諾を得たことで、自身の脚本と覚書を彼に託した。
常々キャメロンを敬愛していたロドリゲスは、監督をするに当たって、「僕が観たいのはキャメロンが撮るはずだった『アリータ~』だ」と考えるようになった。
ロドリゲスは自身のスタイルには固執せず、キャメロンの手法に倣い、可能な限り彼が撮るであろう映像づくりに心血を注いだ。また、劇中のアリータは、キャメロンの構想に従い、全てCGで描かれている。サラザールの演技をパフォーマンスキャプチャーで撮影し、顔の表情も彼女の筋肉の動きをリアルに再現。
先述した大きな目は、サラザールの目を1.25倍に拡大した上で、瞳孔や虹彩などを描き込んでいる。もちろんこれも、原作漫画のテイストを極力打ち出そうという意図の表れである。