原作者である爪 切男の実体験をしたためたノンフィクション・ノベルをもとにしたドラマ「死にたい夜にかぎって」がMBSは 2 月 23 日(日)から、TBSでは 2 月 25 日(火)放送スタートする。
幼少期に母親に捨てられた過去を持つ小野浩史(賀来賢人)の、さまざまな女性との出会いや別れ、巻き起こるハチャメチャなエピソードの数々を笑いとシリアスで包んで放つ人間賛歌だ。
劇中、浩史が人生で一番愛した女性 ・アスカを演じるのが映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』などで知られる新鋭女優・ 山本舞香だ。変態に“唾を売って”生活し、徐々に心の病に蝕まれていくという難しいヒロインを演じることに「運命を感じている」と語る彼女を直撃した。
――まず、出演をオファーされ、最初に台本を読まれたご感想は?
「え!? この役ヤバいな……」と(笑)。だけど、今まで9年間、女優としてお芝居を続けてきたなかでも演じてこなかったような役でしたので、やりがいがあると思ったし、女優としての新しいふり幅がより広がると思えました。
それに、台本を読み進めていくなかで、すごく“リアル”を感じられたんです。愛している人を傷つけたいというアスカの気持ちも分かりますし、私だって情緒が不安定な時期もありました。うつ病などの心の病も、現代では当たり前というか、すごく身近な心の病です。「今の私だからこそ演じるべき役だ」と、ある意味で運命めいた出会いだと思いましたし、アスカは私にしかできないと思っています。
本当に、今までの女優人生でここまで役になり切りたいと思ったことは初めてですね。アスカをどんどん自分の中に入れたい…だから、息ができないほど苦しい気持ちになるときもありますし、何もないのに急におかしくなって笑い出したりすることもあるんですよ。今はそういった不安定な状態ですが、ドラマの撮影がすべて終わったとき、アスカという役を演じきって自分がどれだけ成長できたのかを知るのが楽しみですね。
――アスカとはどのような女性だとお考えですか?
すごく明るくて、真っ直ぐでかわいらしい子ですね。時には、唾を売って生活していたり、アスカが普通と思っていることが周りから見れば普通じゃないこともありますが、浩史への愛だけは本物なんです。
――アスカを演じるうえで何か参考にされたり、役作りに取り入れられたりしたことはありますか?
特に参考にしたりしたものはなく、自分が今まで経験したリアルなことをアスカに反映して体現したいという思いが強かったですね。それを現場で監督とお話しして、一緒に作り上げていった感じです。もちろん、私と監督が思うアスカを賀来さん(浩史)にぶつけて、賀来さんの思う浩史の演技を私が受けて…といったやりとりのなかから出来上がった部分も大いにありますね。それを見て監督が「もっと激しく」とか「そこは落ち着いて」といった感じで的確な指示をくださるんです。“アスカ”を現場で徐々に作り上げていく過程は、本当に楽しかったですね。
――村尾嘉昭監督とは9年ぶりにご一緒されたそうですね?
9年前に『13歳のハローワーク』(テレビ朝日系)でご一緒したんです。当時私は13歳で、村尾監督も助監督だったのですが、こうやってヒロインと監督という立場で一緒にドラマを作れるのは嬉しいと言ってくださっています。そういう意味でも、今作やこの役との出会いにはすごく運命を感じているんです。
――お話を伺っていると山本さん自身が充実して撮影に臨まれていることが伝わってきます。
スタッフさんも皆優しく、現場は心地のいい緊張感に包まれています。細かい話になりますが、陽気なときのアスカと傷つき落ち込んでいるときのアスカのシーンでは絶妙にライティングを変え、雰囲気の違う世界観を作り出しているんです。そういったスタッフさんたちの繊細なプロの仕事ぶりが、演じている側としてはモチベーションに繋がっていますね。
また、この作品自体がなかなか地上波では見られない、ある意味でチャレンジングなドラマだと思っています。「この作品を世に送り出すんだ」というスタッフさんたちの熱い気持ちが伝わって来るので、私もすごく気合が入るんですよ。本当に、深夜枠での放送はもったいない(笑)!
――現場の雰囲気が良いからこそ、山本さんからアイデアを出したりも?
心の病を患ったときって、処方された薬を飲む行為が嫌いなんです。アスカはヘビースモーカーという設定ですが、薬を飲むシーンではタバコをすぐ横に置いて飲んだ後ですぐにタバコ吸って気を紛らわせて…とかは、私から監督に相談しましたね。また、わざと少し手を震えさせたりとか、小道具や細かい演技で、アスカの苦しさや世界観を表現できればと思いました。
また、こんなアドリブ演技もありました。これは監督からの提案だったんですが、あるシーンの撮影のときに、本番でいきなり賀来さんにキスしてほしい、とお願いされたんです。撮影の空き時間に賀来さんと世間話していても、私の方は本番のキスがうまく行くかが気になって、まったく心ここにあらずでしたね(笑)。実際に本番ではいきなりキスしましたが、本当に驚いてらっしゃって、大成功でした!
――山本さんは、ほとんどが賀来さんとのシーンだと思いますが共演されていかがでしたか?
本当に面白い方ですよね。賀来さんならではの大きな動きを取り入れたコメディタッチの演技は、すごいと思って見ていました。笑っているシーンは、思わず本当に素で笑っていることも多いんですよ(笑)。賀来さんと共演させて頂くのは二回目なんですが、実は怖い人なのかなとずっと思っていたんです。前回はなかなか笑顔を見せてくれませんでしたから。だけど、メガネを取って服装をビシッとキメるともちろん「俳優・賀来賢人」なんですが、ダサいメガネをかけて、ダサい服装を着ると、もう浩史としか思えないんですよね。思わず、頭を「よしよし」って撫でたくなるという…だけど、またメガネを外すと、ちょっと怖い(笑)。役と本人との切り替えがとにかくスゴい方です。撮影中もオフのときも、いい雰囲気や環境を作ってくださって感謝しています。
…ただ、撮影の合間にスピリチュアルや都市伝説系のお話しをしてくださるんですが…私、まったくそっちに興味がないので、聞き流していました。ごめんなさい(笑)。
――今作は賀来さんの演技をはじめとしたコミカルな要素も楽しめますが、心の病など現代人が抱えている問題も同時に描かれます。そういったメッセージ性を担うのがアスカだと思うのですが、プレッシャーはありませんか?
心の病のことなどが、世間に歪んだ形で伝わるのは嫌だというプレッシャーはもちろんあります。だけど、うつ病という病気を理解しながらお芝居をしているので、「心の病ってこういう症状なんだよ」って知ってもらいつつも、それでもこうやって男の人と女の人は愛し合えるんだ、支え合えば光が見えてくるんだってことを言葉ではなく演技で伝えたいと思っています。アスカが浩史に支えられているように、私もマネジャーさんや親友たち、大好きな家族に支えてもらっているので、そういった共通点を素直に表現したいですね。
――劇中で、アスカと彼女が作り出す“音楽”は密接な関係にありますよね。
最初は純粋に音楽が好きだったと思うのですが、うつ病を患ってからは、何かに没頭して現実逃避のためにやっている部分もあるのではないでしょうか。そして、浩史への感謝を伝える手段としても、言葉ではなく音楽の方が伝えやすいと思っているのかもしれません。
劇中では私自身が歌ったりギターを奏でているのですが…それだけが本当に嫌でした(苦笑)。すごく下手くそですから! ただギターのシーンで、カットがかかって指を見ると、マメが出来ていたりしたんです。本番中はアドレナリンが出ているのでまったく痛みを感じず気付きませんでしたが……それくらい頑張ったという努力は認めてください(笑)。
――今作は“笑う”という行為や“笑顔”が重要なワードになっています。山本さんはどういうときに笑っていますか?
やっぱり友だちといるときです。最近だと親友のぺぇと(桜井)日奈子といるとき、二人がしゃべっているのを見て笑ってるかな。あとは、テレビで四千頭身を見て笑っています(笑)。あの三人で醸し出す世界観がすごく好きなんですよ。
――最後に、タイトルが「死にたい夜にかぎって」ですが、山本さんは死にたくなるような夜ってありますか?
(即答で)ぜんぜんありますよ(笑)。やっぱり、生きていれば苦しいこともあります。だけど、それより楽しいこともきっとあると思っていますし、それに、私が死んだら一番悲しむのはやっぱり親だなって思うので……できれば、苦しまずに一瞬で死にたいです。……って、そういう質問の意図じゃなかったですよね(笑)。
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