「一緒に仕事をすることが多い先輩のことは書かないっていうのは、最初から決めてたんです」
――執筆中、大変だったことや苦労した点は?
東野幸治:連載に関して言うと、書きたい人から書いていったんで、最終回は誰にしようかな、というのはありましたね。
――連載の最終回は、リットン調査団の水野透さんでした。
東野:そうなんです。「最終回どうしよう」って考えてるときに、たまたま「水曜日のダウンタウン」(TBS系)を見てたら、「“未だにバイトしてる最も芸歴が長い芸人、リットン調査団”説」っていう企画をやってて、水野さんが出てきたんです。ただ、リットン調査団は、藤原(光博)さんのことをすでに書いてるんで、どうしようかなと思ったんですよね。当時、自分の中のルールで、コンビの片方を書いたら相方は書かない、ということに決めてたんで。
――そのルールを破ってでも、水野さんのことが書きたくなったわけですね(笑)。
東野:いや、だって水野さんが漫画喫茶で便所掃除してるんですよ? 「水曜日のダウンタウン」お得意の悪意ある編集で(笑)、「ザ・ノンフィクション」(フジテレビ系)みたいな感じで、水野さんが便器を磨いてるんです。それを見てたらもう、いても立ってもいられなくなって、「水野さんのこと書こう!」と。新潮社さんも「ふざけんなよ! 最終回はダウンタウンだろ!」って、たぶん思ったでしょうけど、そこをぐっと堪えて、泣く泣く水野さんのことを書かせてくれて(笑)。ほんま、何度も言いますけど、こんなええ出版社はないと思いますね。本が売れないといわれるこのご時世に、ほんと申し訳ない(笑)。
――でも、東野さんだったら、ダウンタウンさんのことは、いくらでも書けるのでは?
東野:いえいえそんな、ネタなんて持ってないですし…。(明石家)さんまさんもそうなんですけど、一緒に仕事をすることが多い先輩のことは書かないっていうのは、最初から決めてたんですよ。距離が近い分、書きづらいですし、ダウンタウンさんのことを僕が書くのは恐れ多い、という気持ちもありますし。ダウンタウンさんも、僕に書かれたところで、どう反応していいかわからんと思うんですよね。原稿読んで、「ここは違うで」みたいなことも言いにくいでしょうし(笑)。
――執筆するにあたって、それぞれの芸人さんのバックボーンを調べたりされたんでしょうか。
東野:(宮川)大助・花子さんだけはちゃんと調べました。ただ、僕の思いが強すぎたのか、中山功太とか大西ライオンの原稿には何も文句を言わない新潮社の編集者の方が(笑)、大助・花子さんの章だけは「テイストが他と違うので書き直してください」って言うてきて、書き直したんですよ。
実は最初、もっと壮大な物語を書こうと思ってたんです。大助・花子さんのことは昔から興味があったんで。結果、31章の中の1章になってしまいましたけど、今はそれでよかったと思ってます。書いてみてわかったけど、僕には話が重すぎるなと。
もっと言うと、僕の中では、ダウンタウンさんを取り上げない代わりに、大助・花子さんを書くことによってダウンタウンさんのことも書いている、という意識もあったんです。そんな思いもあって、一番熱を込めて書いたら、まさかのダメ出しですからね(笑)。それだけ、僕もおかしなテンションになってたのかもしれないですけど。
東野幸治・著
発売中/1300円+税/新潮社
■YouTubeチャンネル「東野幸治の幻ラジオ」
https://www.youtube.com/channel/UCSK4Ikp1v5WPe30pTJVe6Zw