今を生きていくためのヒントに繋がる映画 細田佳央太「町田くんの世界」×稲垣吾郎「半世界」<ザテレビジョンシネマ部>
40歳目前の男の人間ドラマ『半世界(2019)』
『エルネスト(2017)』の阪本順治監督のオリジナル作品。とある地方都市を舞台に、炭焼き職人として働く39歳の高村紘(稲垣吾郎)とその旧友らが、家族・仕事・友人と向き合っていく様を描いた人間ドラマ。諦めるには早過ぎて、焦るには遅過ぎる40歳目前の男たちの様々な葛藤を通し、いくつになっても変わることのないままならぬ人生を、他者との繋がりの大切さを映し出す。
『町田くんの世界』を観たのなら、かつて自分にも宿っていたであろう可能性を思い出し、何かを変えられそうな勇気が湧いてくると思う。ただ、それは一朝一夕で取り戻せるものではない。年を取れば、どうにもできないこともある。町田くんのような輝きを既に失ってしまった男たちが必死にあがく姿を目にすれば、その道理が分かるはず。
思い描いた通りの人生をあなたは生きているだろうか。胸を張って「YES」と答えられる人も中にはいるが、きっと多くの人が高村たちと同様、心のどこかで折り合いをつけながら生きている。若かりし頃であれば、割り切ったり投げ出したり諦めたとしても、何度でも新たなスタートを切れたと思う。
けれど、ある程度の年齢に達してしまえば、無数の責任とリスクが付きまとう。全てを手放すにしても、多くを背負い過ぎてしまっている。仮に手放してしまったのなら、自分の中の大切な何かを差し出したり、大切な誰かをひどく傷つけることにもなるだろう。
「滞りなく継続させていくのが40代なのだ」
僕は現在33歳なのだが、人生の折り返し地点とも言える40歳を目前に控えた男たちの現実を目の当たりにして思った。色々なことに挑戦したりつかみ取っていくのが20代や30代なのだとしたら、自分でつかみ取り築き上げたものや、先人から託されたものを維持したり滞りなく継続させていくのが40代なのだと。
そして、親の存在など、それまで当たり前のようにあり続けてきたものが有無を言わさず失われ始めていく頃合いであるのと同時に、友情や思い出など、変わらずにあり続けるものに宿る価値を見直していくべき頃合いでもあるのだと。いつの世も時代は移り変わるし、人は年齢を重ねていく。
そんな中、今あるものや価値観だけでやっていけるとは限らない。何かしらテコ入れしなければ、創意工夫を加えなければ、平穏を維持できなくなることもある。変化を拒む心、変化を受け入れられる心、変化しないものに気が付ける心。いくつもの心のあり方を共存させてこそ、40代という年齢を上手く立ち回ることができるのだと、本作におけるアラフォー世代の男たちの葛藤が示してくれる。
若かりし頃に持ち合わせていたはずの輝きと、大人になればなる程に逃れられなくなっていく無数の問題。双方を照らし合わせることで見えてくる何かが、より良き今を生きていくためのヒントに繋がると思います。是非セットでご覧ください。
文=ミヤザキタケル
長野県出身。1986年生まれ。映画アドバイザーとして、映画サイトへの寄稿・ラジオ・web番組・イベントなどに多数出演。『GO』『ファイト・クラブ』『男はつらいよ』とウディ・アレン作品がバイブル。