初の完全ヒール役だった「奪い愛、冬」での怪演
水野の怪演が話題になったのはこれが初めてではない。バカリズムが脚本を担当した2016年のドラマ「黒い十人の女」(日本テレビ系)では、船越英一郎が演じるドラマプロデューサーの愛人の一人であるクセが強めの舞台女優の役で、他の愛人にカフェオレやあんかけ焼きそばをぶっかけられていた。そしてさらに強く記憶に残っているのは、なんといっても翌年の2017年に放送された「奪い愛、冬」(テレビ朝日系)だ。
「奪い愛、冬」は、「M 愛すべき人がいて」の脚本を担当している鈴木おさむの完全オリジナル作品で、倉科カナ主演で男女の“奪い合い”を描いた。ここで水野は、夫・信(大谷亮平)の元カノである光(倉科)に嫉妬し、猟奇的な言動をとる蘭という役だった。
例えば、密会する信と光がキスするとクローゼットの中から「ここにいるよぉ~!」と飛び出す場面は最も視聴者を驚かせただろう。ちなみに、この「ここにいるよ」は、「M 愛すべき人がいて」で天満が歌うことの心得としてアユに向けて「誰かに向けて歌え!私はここにいるよ!って」と言っており、「奪い愛~」ファンが反応する一幕もあった。
「奪い愛~」当時のインタビューで「彼女(蘭)は100%のヒール役じゃないですか。実際の私はとても善良なおとなしい人間なので(笑)、あんな一面はないですね」と語っていた。また、「オファーをいただいた時は、この役をやったらCMの仕事がこなくなりそうだなって(笑)。でも、いま、お芝居をするのが楽しくて。蘭のようなヒール役をいただいたり、『黒い十人の女』の時のように笑いの要素も求められる役をいただけるようになってきたのは、役者冥利に尽きます」とも明かしていた(2017年2月10日、ORICON NEWS)。
同じスタッフが結集し、ABEMAで配信された「奪い愛、夏」では水野は主演を務め、ここでも猟奇的な行動を連発しながら、小池徹平、松本まりかとドロドロの恋愛ドラマを繰り広げた。
水野は「M 愛すべき人がいて」第1話の放送後、自身のTwitterで今回のゲスト出演についての記事を引用し「来週これです。もう、せっかくの朝ドラのイメージが雲散霧消だと事務所スタッフは白目であります。」とつづった。朝ドラとは、2019年9月~2020年3月まで放送された「スカーレット」(NHK総合)のことで、水野はヒロインである喜美子(戸田恵梨香)に影響を与えるちや子を好演していた。
また、1月期の月9ドラマ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」(フジテレビ系)では、法務省官僚という、きりっとしたエリートの女性を演じた。物語の鍵となる存在でもあり、壮絶な最期を迎えるシーンは主演の沢村一樹の慟哭と相まって、多くの視聴者の胸を打った。
シリアス度の高い演技が注目されることが続いたなかで、再び笑いを誘うことが予想される役柄に事務所スタッフが白目になってしまったのも無理はないかもしれないが、役の振り幅が大きく、そのどちらも期待されていることは水野の“芝居力”があるからにほかならない。