──なんでしょう?
小沢「この前、自粛中だから親友とオンライン飲み会みたいなのをしてたんだけど、そのとき俺が『何か面白い映画ない?』って聞いたら、彼が『オザにめちゃくちゃ観てほしい映画がある』って薦めてくれたのが、なんとこの映画で。そうしたらその3日後に、この連載で取り上げる映画の候補として届いた数本の中に、これが入ってたのよ」
──え~っ、それは本当にすごい偶然!
小沢「親友は、『この主人公が、マジでオザっぽいやつなんだよ』って薦めてくれたんだけど、その3日後にそれが候補作として届くなんて、こんな奇跡的なことないでしょ(笑)。偶然っていうのは、本当に美しい出会いを演出してくれるよね」
──美しすぎる出会いですね、それは。
小沢「だから、寺山修司の言う通り、すべての出会いは偶然なのよ。今、こうして取材を受けて俺が喋ってるのも偶然だし。そういう偶然の出会いを、どれだけ面白いものに変えていけるかっていうのが、その人の生き方だと思う。それと同時に、この映画の登場人物たちのように、たとえそれが必然の出来事でも偶然のフリして笑える心の余裕みたいなものが、今の僕らにもうちょっとあってもいいんじゃないかな、とも思ったよね」
──特にみんな、心の余裕がなくなってる時期だからこそ。
小沢「そうね。今のこのご時世、何が正しいか、間違ってるか、みんなハッキリと白黒つけないと気が済まないし、間違ってるものをすぐ叩いたりするけど、そこにもっとユーモアがあってもいいんじゃないかなって思うんだよ。たとえ嘘だと分かっても、それを笑って受け止められる余裕みたいなものが、もう少しあってもいいんじゃないかと。もちろん、悲しい嘘とか、人を傷つけたり、そいつが得するためについてる嘘なんていうのは論外だけどさ。楽しい嘘は世の中を面白くすると思うし、嘘っていうのはエンターテインメントだからね。だから、このジョスランみたいな楽しい嘘なら、これからも俺はついていこうと思ってる(笑)」
──結局、ご親友の言う通り、小沢さんはジョスランと似てましたか?
小沢「まあ、たしかにね。ただ、俺が一番“俺っぽい”と思ったのは、ジョスランの秘書の女の子が泣き出すシーンだよね」
──ラスト近くのシーンで、秘書のマリー(エルザ・ジルベルスタイン)が「私はあなたの単なる秘書です。12年間ずっと注目もされなかった」と泣きながら訴え始めるところですね。
小沢「そう。『気づいてもらおうと奇抜な服装をした。服の数は多くないからうまく着回して』とか、『今日は誕生日なんです』『でも私には秘書がいないから、誰もあなたにそれを伝えてくれない』ってひとりでずっとベラベラ喋ったあと、我に返って『何のご用ですか』って聞くと、ジョスランが『誕生日おめでとう』ってプレゼントのカーディガンを渡すっていう」
──いいシーンですよね。ちゃんと彼女の誕生日を知ってた。
小沢「その緑色のカーディガンを見たマリーが感激して、『初めての色』って言うと、ジョスランが『知ってる』って。つまり、その色の服を君が持ってないことも知ってるよ、っていう。あそこの場面は、俺のキャラっぽいなと思った(笑)」
──たしかに小沢さんっぽい。
小沢「そういえば、あれもよかったよね。映画の最後に出てくる『みんな立ち上がろう』っていうメッセージ。あれはダブル・ミーニングになってるんだろうけど。車椅子から立ち上がるっていう意味もあるし、世の中のみんなに、何かアクションを起こしてみよう、って呼びかける意味もあるんだろうし」
──ただ、あれはメッセージみたいに見えましたけど、実はフランス語版の原題らしいですよ。
小沢「あ、そうなの? じゃあ、ただ最後にタイトルを出しただけ?」
──そういうことみたいです。
小沢「な〜んだ(笑)」
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
取材・文=八木賢太郎
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