このように楽曲とドラマがリンクしているパターンは、第9週に限ったことではない。
第8週は、応援歌「紺碧の空」ができるまでの物語で、他人を応援する気持ちがわからなかった裕一が、早稲田の応援団長・田中(三浦貴大)と彼の故郷の野球仲間との友情の話を聞いたことをきっかけに、他者を応援する気持ちを理解し、それによってたくさんの人々の背中を押す曲が誕生した。第8週の最後は、裕一自身が自作で応援してもらえる。
裕一や音の物語と楽曲の関わりを振り返ると、例えば第1週。裕一が少年のとき、父・三郎(唐沢寿明)が買った蓄音機でエルガーの行進曲「威風堂々」を聞いて音楽に目覚める。この曲は直截的にドラマと関わってはいないが、これがかかることで、これから古山裕一の華々しいドラマがはじまるぞ! というスタートにふさわしい曲であった。
第2週は、双浦環が歌っていたプッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」の一曲「私のお父さん」。音が歌手になろうと思うきっかけになった。
この歌は、好きな人のことをどれだけ真剣に愛しているか父に伝える歌で、音の父・安隆(光石研)は裕一を紹介される前に亡くなってしまうが、やがて音が裕一のことを家族に紹介することになる伏線になっているようにも感じられる。
また、「ジャンニ・スキッキ」はジャンニ・スキッキという人物が、ある家の遺産相続と恋愛問題を解決する話で、ドラマで父親が亡くなったとき父の作った会社をめぐる契約問題が勃発したこととも重ねて見ることができる。
第3週のビゼーの「カルメン」はカルメンに夢中な男が身を滅ぼしていく話。恋のライバルとの決闘場面もある。この週は、裕一とハモニカ倶楽部の先輩が演奏会の新曲をめぐって対決した。
第4週のモーツァルトの「フィガロの結婚」の一曲「恋とはどんなものかしら」は、ケルビーノという小姓が思春期まっさかりで書いた曲という設定。まさに音がいないと曲ができないという裕一を表しているかのようである。
第7週で、久志が歌っていたオペラ「ドン・ジョバンニ」の一曲「お手をどうぞ」はリスト化できるほどたくさんの女の人とつきあっている女たらしの歌。プリンス・久志が音楽学校でモテているという状況を皮肉ったようにも思える。
これまでは西洋のオペラが各週のエピソードのモチーフになることが多かったが、今後は裕一がモデルである古関裕而の曲を作っていくことになるだろうから、古関裕而のヒット作をはじめとした日本の楽曲がドラマと絡み合っていくかもしれない。
劇中に出てくる楽曲を知るとドラマがより楽しめる。「エール」は凝った音楽ドラマなのである。
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