映画を愛するスピードワゴンの小沢一敬さんならではの「僕が思う、最高にシビれるこの映画の名セリフ」をお届け。第17回は、伝説のコメディアン、ローレル&ハーディの晩年を描いたヒューマン・ドラマ『僕たちのラストステージ(2018)』(7月28日(火)夜7:45、WOWOWプライム)。さて、どんな名セリフが飛び出すか?
──今回は、1930年代に活躍したアメリカのお笑いコンビを描いた作品です。主人公の2人は小沢さんと同じ立場の人たちですが。
小沢「あっ、俺らも解散を控えてるんだっけ?(笑)」
──いやいや、そういう意味じゃなくて。小沢さんと同じく、笑いを職業にしている2人のお話です。
小沢「普段は漫才とかお笑いをテーマにした映画って、あんまり観ないんだけどさ、これはすごく面白かった。ちょうどコロナの影響で、スピードワゴンが毎月やってたライブが3月から休止になってる時期で。もちろん、他のライブもないから、漫才そのものを3月から一度もやってなくてさ。そんな時にこの映画を観たから、なおさら思うところがあったよね。彼らは漫才コンビではないけど、確かに笑いをつくるという点では俺らと同じだから」
──同じ立場の人間として観て、いかがでしたか?
小沢「たぶん、お笑いをやる側の人間と、お笑いを観る側の人では、この映画の感想も違うと思うんだけど。俺はこの映画を観て、やっぱりコンビっていうのは複雑なものだなって思った。俺らも、もう結成から20年以上がたってて、自分の家族なんかよりも相方の(井戸田)潤の方が、一緒にいた時間はよっぽど長くなってるのね。そうすると、だいたい相手の考えてることは分かるんだよ。そんなのいちいち口に出して言わないけど、こういうのは嫌だろうなとか、今は楽しんでるなとか、分かっちゃう。でも、分かるからこそ、しんどい時もあるわけ」
──それは、例えば?
小沢「そうだなぁ、例えば『あいつは、もっと仕事増やしたいんだろうな』って思う時があるんだけど、俺はあんまり仕事したくない、とかね(笑)。もちろん、潤も俺に対しては気を使ってる部分があるだろうし。そういうコンビの難しさみたいなものを、この映画を観ながら考えたよね」
──主人公はスタン・ローレル(スティーヴ・クーガン)とオリヴァー・ハーディ(ジョン・C・ライリー)。かつての人気を失って“過去の人”になっていた2人は、新作映画のプロモーションを兼ねたイギリス巡業の旅に出掛けますが、その巡業中に彼らが仲たがいして、大ゲンカするシーンもありました。
小沢「あの年であれだけのケンカができるって、いいなって思った。俺らもわりと仲のいいコンビだけど、それこそ若い頃は、あれぐらいの大ゲンカを何回かしたよ。それがこの年になると、ケンカになる前にお互いが察して引いちゃうからね」
──さらに彼らの奥さんもコンビ仲に介入してきて、コンビを取るか? 奥さんを取るか? みたいな話にもなりますよね。
小沢「俺の場合、潤に誘われてスピードワゴンを組んで、一緒に東京に出て来て、その後もいろんな場面で潤にグイグイ引っ張ってきてもらった感じだったから、気持ちのどこかで『今の俺があるのは潤のおかげであり、潤のせいでもある』ってずっと思ってて。だから、潤が結婚するって聞いた時、思ったんだよね。『お前が誘ったんだから、俺を死ぬまで面倒見てくれなきゃダメじゃん! なんで勝手に結婚してくれてんだよ!?』って(笑)」
──ちなみに小沢さんは、コンビのどちらに感情移入して観てましたか?
小沢「それはやっぱり、ネタを書くスタンの方かな。俺もネタを書くから。ただ、お笑いのコンビの場合、どっちかがネタを書くといっても、だいたいネタを作る時は2人でアイデアを出し合うし、演じるのも2人でやるわけだから。いってみれば、野球のピッチャーとキャッチャーのような関係なんだけど。そういうところもうまく描かれてたよね。毎回、楽屋でネタ合わせしてるシーンとかも、『あ〜、分かるなぁ』と思って観てた。まあ、あんなベテランになったら、あそこまで毎回ネタ合わせしないとは思うけどね(笑)」
──そんな小沢さんにとって感情移入しやすかったこの作品ですが、今回一番シビれた名セリフはなんでしょう?
小沢「ほかに何をする?」
※編集部注:ここから先はネタバレを含みますのでご注意ください。
──巡業中に新作映画のネタの練習を続けていた2人。実は映画の企画はボツになっていましたが、スタンはそのことをオリヴァーに言えず、仕方なく撮影されるはずのない映画のネタを書き続けます。旅の終わりでスタンがようやくオリヴァーにその事実を告げると、オリヴァーは「知ってたよ」と逆に告白。その時、「(知っていたのに)なぜ映画のシーンの練習を続けた?」と問い掛けるスタンに対して、オリヴァーがほほ笑みながら言うセリフですね。
小沢「俺もさ、コロナの影響で“Stay Home”だった時、ライブができないからネタを書いたところで披露する場所もないし、次にいつ漫才をやれるかも分からないのに、ネタを書いてたんだよね。『なんで書いてるんだろう?』って思うこともあったんだけど、そんな時にこの『ほかに何をする?』っていうセリフを聞いて、『あ、そうだよな。俺らはこれをやるのが当たり前で、ネタを書きたくてこの世界に入ったんだもんな』って、改めて気付かされたんだよね」
──小沢さんにとってタイムリーな映画でしたね。
小沢「そう。今の自分には、すごく共感できるセリフだった。もちろん俺だけじゃなくて、自分のやるべき仕事を持ってる人には、あのセリフはものすごく刺さるんじゃないかな」
──その他に好きなシーンはありましたか?
小沢「最後の、2人のステージを観ながら、それまで仲が悪かった奥さん同士が手を握り合うところ。あそこも好きだな」
──グッとくるシーンですね。
小沢「俺には奥さんがいないし、潤には奥さんが……あ、その話はやめとこうか(笑)」
──思い出させないであげてください。
小沢「実際、コンビの奥さん同士って、どういう関係なんだろうね。例えば俺らの先輩のバナナマンの奥さん同士とかさ。そんなことを想像しながら観るのが面白かった。あとは、『先日のケンカで僕に言ったことは本心か?』って聞くところもよかったよ」
──病に倒れたオリヴァーが奥さんの勧めで引退を決めた時、見舞いに来たスタンがオリヴァーに問い掛けるセリフですね。そう聞かれたオリヴァーが「違うよ。君は?」と聞き返すと、スタンも「まさか」と。
小沢「あのシーンのやりとりって、みんな、誰もが思い当たるところがあると思うんだ。夫婦や恋人同士のケンカでも、友達同士のケンカでも、ケンカの時の言い合いって、思ってないことを言うわけじゃなく、当然、思ってるからこそ口から出てくる。ただ、思ってはいるけど『これは言っちゃいけないな』ってひと言を、うっかり言ってしまうことがあるじゃん。これは言わないでおくべきだと決めてたのに、思わず言っちゃって、言ってから後悔すること」
──よくあります、それは。
小沢「でも、それは本心から出た言葉ではあるけど、正確には本心じゃないんだよね。俺はさ、なんでも言い合える関係が決してすばらしいとは思わないの。その人のことが好きで、その人のことをよく見てるから、嫌な部分も知ってるけど、好きだからこそ、これは言わないようにしようって思ってることって必ずあるはずで。だから、このシーンみたいに『本心か?』って聞かれたら、『違うよ』って言うことは正しいと思ってるんだ……なんかこの話、全然まとまらないけど(笑)」
──まあ、なかなか難しい問題なので、いつか似たようなテーマの映画があったら、そのときに再び考えたいところですかね。
小沢「そんなパターンも許されるの? そんなこと言いながら、まさか今回が、こんなオチのない話をする俺のラストステージにならないよね?(笑)」
──まだまだ小沢さんに語ってほしい映画がたくさんありますから、ラストステージにはしません。
小沢「たぶんこの映画は、今までここで紹介させてもらった中でも、一番自分に近い映画だったと思うんだ。だから、自分の思いがうまく整理できてないところもあるのかな」
──感情移入し過ぎてしまったと。
小沢「そうね。だから、俺が漫才師を辞めて、WOWOWのキュレーターの仕事一本でやるようになったら、もっと理解できるようになるかもしれない(笑)」
愛知県出身。1973年生まれ。お笑いコンビ、スピードワゴンのボケ&ネタ作り担当。書き下ろし小説「でらつれ」や、名言を扱った「夜が小沢をそそのかす スポーツ漫画と芸人の囁き」「恋ができるなら失恋したってかまわない」など著書も多数ある。
取材・文=八木賢太郎
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