――演じたタカラは、芋生さんから見てどんな子ですか?
タカラは、幼少期から見なくていいものを見ていて、穢(けが)れた世界を知っていて、すごいトラウマも持っていて。
その中で諦めている子ではありますけど、その諦めている中にもかすかな光、きれいなモノをずっと持ち続けているというか、守り続けている子なんです。
その“暗闇の中でちょっとだけ光っている”というところに強い子だと感じましたので、“タカラになる”のではなく、“タカラと一緒に歩む”ことを選択して、一番近くで寄り添いながら、自分が演じることでタカラを希望のある子に持っていきたいなって思いました。
――「いいなぁ、役者って。いろんな人生を生きられるから」というタカラのセリフがありました。芋生さん自身、役者としていろんな役を演じられているので、このセリフに対して思うことがあるんじゃないかと思ったんですが。
はい。役者をしている翔太に向けての言葉なんですけど、翔太は迷っていたり、もどかしさにいら立っていたりしていて。でも、タカラには輝かしく見えているんです。うらやましいなって。
私自身、今、このお仕事をさせていただいているので、このセリフを見た時、「自分が役者じゃなかったら」とか考えたりしました。
役者という仕事にすごく生かされている部分があるので、役者じゃなかったら死んでいたように生きていたかもしれないので、自分の中にもグサッと刺さりました。
――タカラもそうですし、手羽を持っている「TVer」のCM、アイドル役の「ドラマW 父と息子の地下アイドル」(2020、WOWOWプライム)など、芋生さんもいろんな役や人生を経験されて。
そうですね。すごくやりがいを感じています。役者をやってなかったらアイドルも経験できなかったと思いますから(笑)。
――少し話はそれますが、タイトルの「ソワレ」は演劇のマチネ、ソワレから来ていると思いますが、フランス語で“夕方”という意味もあります。“夕方”の時間帯での思い出とか何かありますか?
地元にいた時は家の近くに川があって、学校帰りに一回気持ちを落ち着かせたい時とか一人になりたい時に、夕焼けを見たり、流れる川を見てボーッとしたり、というのはありました(笑)。
あの時間はすごくよかったなって。学校で嫌なことがあったりしたら、親にそんな顔を見せたくないので川を眺めて癒やされて…。「まぁ、いっか。寝たらどうにかなるんじゃない?」みたいな気持ちになって帰れるんです(笑)。
――気持ちの切り替えって大切ですよね。“自分の時間”ということで言うと、春頃から自粛期間で自分の時間も持つことができたと思いますが、この機会に始めたこととかありますか?
はい、あります。音楽をやってみようかなって思って、歌とか曲を作っています。相当時間が余っていたので詞みたいなのを書き始めたら「曲にできるかもしれない!」って思って(笑)。それで歌詞を書いて、メロディーを考えて。
――“演技”とはまた違った自己表現の一つとして。
はい。そういう気持ちもありつつ、趣味として楽しくやっています(笑)。
――最後に、「ソワレ」の見どころを含めた読者へのメッセージをお願いします。
ツラい状況になった時の“もどかしさ”というか、何に対していら立てばいいのか分からなくて人にぶつけて傷つけてしまったり、自分自身にぶつけて心が折れてしまったり…。
そういうことが自分にもあって、もしかしたら皆さんにもあるかもしれないなって思うんです。今、この映画を見たら、まず自分を愛せなきゃいけない、自分の足で歩かなきゃいけないっていうことを感じてもらえるんじゃないかなって。
それと、実際に私はこの作品を見終えた時に大切な人たちの顔がパッと浮かんだので、皆さんも見終わった後に大切な人たちと笑い合ったり、一緒にご飯を食べたりできる時間がすごく尊いものだと感じるんじゃないかと思います。
公開日が8月28日(金)ということで、まだまだ現状では映画館に行きづらい状況にあったりするかもしれないですけど、今だからこそ見てもらいたいです。
取材・文・撮影=田中隆信
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