<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「僕らが起こした事件」【短期集中連載/第7回】
子を持つ親…つまり「絵本を買う決定権を持っている人間」に憑依して身の回りを見渡してみると、様々な条件が見えてきます。まずは、独身時代のように「自由に使えるお金と時間」に余裕がありませんでした。となると、「ハズレの買い物」はできないわけで、内容がわからない絵本を一か八かで買うことはありません。だからといって、「アタリの絵本」に出合うまで本屋さんで何時間も立ち読みするほどの時間の余裕はありません。こうなってくると、一番の安全策は「子供の頃に好んで読んでもらっていた絵本を、自分の子供に買い与える」になります。これならハズレることもありませんし、時間も奪われません。
どうやら絵本というものは、そもそもネタバレしているところからがスタートで、ネタバレしている作品じゃないと購入候補にも入らない。「ならば、一人でも多くの大人にネタバレした方がいいだろう」と考え、ネットに全ページ無料公開し、自宅で立ち読みできるようにしました。
それと、もう一つ。絵本には二つの価値があります。絵やストーリーといった「情報」としての価値と、親が子に読み聞かせする際の「コミュニケーションツール」としての価値です。子供の隣で読み聞かせする絵本は、ある程度のサイズ(面積)が必要です。スマホの画面では届きません。
つまり、絵本『えんとつ町のプペル』の全ページ無料公開は、「情報」としての絵本を無料にしただけで、「コミュニケーションツール」としての絵本は有料です。読み聞かせするには、紙の本を買わないといけません。ちなみに、スマホで読み聞かせしにくいように、ネットに無料でアップしている絵本『えんとつ町のプペル』は縦スクロールにしてみました。
勇気を寄せ集めた
周りからどう見られていたかは知りませんが、絵本『えんとつ町のプペル』の全ページ無料公開は奇策などではなく、成功確度が極めて高いプロジェクトで、リリースすればハマることはわかっていました。あとは、リリース前にプロジェクトが頓挫することを防ぐだけ。その当時、僕が無料公開を企んでいることを知っていたのは、担当編集者とマネージャーと友達…の計5人ほど。その彼らに、作戦を打ち明けたときの返事は痛快でした。
「許可を取りに行くのはやめよう、途中で必ず止められる。謝るのなら、怒られてから謝ろう。やろう」
皆、とっくに覚悟は決まっていました。「大ヒット中の絵本の無料公開」という、たった5人で仕掛けた事件は、出版業界だけに収まらず、日本中を巻き込んで大きな賛否を生みました。罵詈雑言の数々が僕のところに飛んできましたが、まもなく絵本『えんとつ町のプペル』は爆発的に売り上げを伸ばします。その結果を受け、批判は一瞬で消え、その後、「無料公開」は出版業界の広告戦略の一つとなりました。
絵本『えんとつ町のプペル』は一世一代の大勝負でした。結果が出るまでの間は、たくさんの攻撃を浴びることは目に見えていましたし、案の定、たくさんの攻撃を浴びました。しかし、僕から作戦を聞かされた五人は、最初から誰一人として、この作戦を否定しませんでした。
僕らは全員「いける」と信じていて、そして、信じたとおりの未来がやってきました。僕らが時代に選ばれたわけではありません。僕らが時代を作ったのです。僕らはずっとこうしてきました。これからも。
(第8回は10月12日[月]更新予定)
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◼︎『映画 えんとつ町のプぺル』ED主題歌(ダンスバージョン)
PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。同番組がゴールデン枠に移行した2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本デビューを果たす。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数50万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。クラウドファンディングでの合計調達額は3億8000万円を突破。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
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