「エール」踏み込んだ戦場描写で悲惨さ伝える “朝ドラと戦争”の切り離せない歴史とは
2020年度前期の“朝ドラ”こと連続テレビ小説「エール」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか)。第18週では戦争の悲惨さが描かれ、視聴者から大きな反響を呼んだ。今回は朝ドラと戦争の関係について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)
戦時中に青春時代を過ごしたヒロインが31人
第18週「戦場の歌」では、裕一(窪田正孝)が慰問先のビルマ(現ミャンマー)で凄惨な体験をした。敵の襲撃を受けて恩師の藤堂先生(森山直太朗)が絶命。眼前で多くの命が消えていくのを見て、裕一は曲を作って彼らを戦場に送る手伝いをしたことを激しく後悔する。
放送を前にチーフ演出家・吉田照幸はこんなことを語っていた。
「朝ドラではふだんは省略してしまう戦争の描写は、裕一を描くうえで、避けられないと思い、若干の覚悟をもって撮りました。ここまでの戦争描写は夜のドラマであれば問題はないですが、朝の食卓に届けることへの若干の迷いというか躊躇があるのは確かです。ただ、戦争描写――裕一の自我の喪失――信じていたもののすべてが崩壊していく描写はこのドラマに重要と考えました」(東洋経済オンライン 朝ドラ「エール」凄惨な戦地の描写に透ける覚悟 より)
「エール」をふくめ102作放送されている朝ドラでは、戦時中に青春時代を過ごしたヒロインが31人もいる。彼女たちの人生にどうしたって戦争は大きな影響を及ぼしている。よってドラマでも戦争に関する描写はある。だが、朝の時間帯ということもあってその描写はソフト。そのことについては、「ひよっこ」(2017年度前期)当時のドラマ部部長はこのように考えを語っていた。
「朝ドラでは戦争80年代90年代の頃って、戦争の話をやると戦争体験のある視聴者の方々から『戦争の場面を見るのがイヤだ』というご意見がけっこう来るようになりました。戦争直後は戦争の場面があまり描かれず、それからしばらくすると戦争の場面をやっても大丈夫な時代がやってきましたが、戦争の本当の体験者が高齢化してくると見るパワーがなくなってくるのかわからないですけど、『観たくない』と言う人が多くなって来た時期と、『僕らも戦争の描き方についてもうちょっとセンシティブにならなくちゃいけないんじゃないか』という時期がたまたまリンクしているんです。こうして戦争から離れた現代劇をやるようになったのが2000年代のはじめですね」(Otocoto「もうすぐ100作。『ひよっこ』は高度成長期の話だが、戦中・戦後・現代、朝ドラで描く時代はどう決めるのか?NHKドラマ部部長に聞いた」より)