<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「鳴り止まないエンターテイメント」【短期集中連載/第9回】
「誰か見たのかよ。誰も見てないだろ? だったら、まだ分かんないじゃないか」
アフレコ収録でその声を聞いた瞬間、これは、100年に一度のウイルスに襲われ希望を失った2020年に、強く響くメッセージになると確信しました。今日、公開された本予告で、そのシーンが流れますので、是非、その声を聞いてみてください。たしかに今はまだ光は見えないけれど、だけど、結論を出すには早すぎる。まだわからない。まだ、やれることがあるハズだ。
子供の頃。家の近所のダイエーの駐車場にプロレスの巡業が来ました。駐車場の真ん中にプロレスのリングが組み立てられて、いつもの景色が一変します。まもなく、その周りにたくさんの椅子が並べられ、これから始める「まだ見たことない何か」に子供の僕の胸が躍ります。夜になると駐車場のフェンスにはブルーシートが張られ、お金を払わないと中を覗くことができません。当然、そんなお金は持ち合わせていませんが、この胸の高鳴りが収まるはずもなく、僕はブルーシートが張られたフェンスに耳をピッタリと付けて、中の様子を想像しました。聞こえてくるのは、ドタンバタンと技が決まる音と、大きな歓声。生まれて初めて聞いたエンターテイメントの音は、ずっとずっと僕の耳にこびりついて、その夜は興奮して眠れませんでした。
それから数年後。周りのリクエストに片っ端から応えていった結果、売れっ子タレントになった僕は、これが本当にやりたかったことなのか、物陰から覗いてくる子供の頃の僕をドキドキさせられているのか……自分の活動に胸を張れずにいました。「もしかしたら、僕の居場所はここじゃないのかもしれない」。そんな中、テレビの世界に限界を感じつつ、ウジウジと行動を起こせないでいた僕に、光の片鱗を見せてくれた人がいました。
落語家の立川志の輔師匠です。
あの日、渋谷のパルコ劇場で開催されていた『志の輔らくご』で観た景色は、リクエストに応える僕の毎日とは、まったく違うものでした。開演から終演まで、志の輔師匠が一貫して発信しているメッセージは「僕が面白いと思っているのはコレです」の一点。
そこは、そのメッセージを軸に世界が回っていて、世間との折り合いの欠片もありません。それは、大人になり、求められる毎日の中ですっかり忘れていた、子供の頃の僕の胸を躍らせて止まなかったエンターテイメントの姿でした。終演後の客席で、「そうだ。僕は、ずっとこれがしたかったんだ」と涙が止まりませんでした。
同じ頃、劇作家の後藤ひろひとサンにお誘いいただいて観に行った舞台『ひーはー!』でも同じ体験をしました。練り込まれた脚本の上を、役者さんが全速力で走り抜けて、徹頭徹尾バカをする喜劇です。カーテンコールで出てきた役者さん達が、そこでもまたバカな踊りをするもんだから、また泣けてきます。
折り合いなんてつけなくて良かったじゃないか。
一緒に観に行った後輩からすると、たまったもんじゃありません。コメディーを観終わった先輩が、隣の席でビービー泣いて、立ち上がれなくなっているのですから。テレビの世界から軸足を抜くことを決めたのは、その日の帰り道。
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PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家デビュー。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数50万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。
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