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<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「鳴り止まないエンターテイメント」【短期集中連載/第9回】

2020/10/20 21:00


「食えている絵本作家の名前を3人挙げてください」という問題に答えられる人は少ないと思います。きっと、一人の名前も出てこない。まさにそれこそが絵本業界の現状で、僕が飛び込んだのは、そんな世界です。その挑戦は日本中から「無理だ無理だ」と囃されて、たくさんたくさん笑われましたが、その時、いつも胸に秘めていた言葉があります。

「まだ分かんないじゃないか」

お恥ずかしい話ですが、映画『えんとつ町のプペル』のストーリーは僕の人生が下地となっています。黒い煙に覆われた町で、見上げることを忘れた町で、それでも星を信じ、見上げる少年・ルビッチに、星の存在を教えたのは、ルビッチの父親のブルーノです。ここまでお話しすると、ブルーノというキャラクターのモデルは皆様、御察しの通り。プペルとルビッチの声を、プペルとルビッチのように、強くて、純粋で、しなやかさを持った方にお願いしたように、やはりブルーノの声も、「こういう面白い世界があるんだぜ」と教えてくれる人にお願いしようと思いました。

そろそろ話をまとめますね。

立川志の輔師匠との約束


25歳当時、自身の活動に絶望を感じていた西野に「星空」の存在を舞台上から教えた恩人、立川志の輔がブルーノの声を務める
25歳当時、自身の活動に絶望を感じていた西野に「星空」の存在を舞台上から教えた恩人、立川志の輔がブルーノの声を務める


ちょうど一年前。僕は、西麻布の鰻屋さんにいました。ブルーノの声は、どうしても志の輔師匠にお願いしたかったのですが、なんといっても相手は落語界の至宝です。簡単にお受けいただけないことは重々承知していましたが、ただ一つ、スタッフがオファーを出して断られてしまったときに、僕は一生後悔すると思ったので、僕が直接お願いすることにしました。自分の口で想いを語り、自分の頭を下げ、それで断られたら諦めもつきます。そんなわけで、「師匠にお願いしたいことがあります。どこかで、少しだけお時間いただけませんか?」と連絡させていただき(震えたなぁ)、西麻布の鰻屋さんに至ります。

「ちょっと緊張するんで、呑ませてもらってもいいですか?」と持ち前のアル中を発動させたのですが、呑んでも呑んでも酒が回りません。緊張がアルコールを猛スピードで分解しちゃうもんだから、「酔った勢いでお願いする」という作戦は早々に諦めました。

なかなか本題を切り出せないまま時間だけが過ぎて、せっかく師匠のお時間をいただいているのに、このままだと何の会だかわかりません。自分の中で「次の一杯を呑んだら、話を切り出すぞ」と締め切りを設け、呑み終わりと同時に「エイヤ!」と話を切り出してみました。

今、『えんとつ町のプペル』という映画を作っていること。それが、星を知らない町で、それでも星を信じる少年の物語であるということ。その少年に、星の存在をほのめかした父親がいること。その父親のモデルが志の輔師匠であること。あの日のパルコ劇場で、涙が止まらなくなったこと。

ここに至るまでのことを正直に全て話して、最後に「ブルーノ役は、志の輔師匠しか考えられません。どうか、お願いします」と頭を下げました。

その直後、「なんだ、そんなことかぁ。俺、今日、なんか怒られるんだと思ってたよ〜」と志の輔師匠が笑いました。わかっています。覚悟を振り絞った後輩の緊張を解く為に、笑い事にしてくださったのです。優しいな、ホントに。

「西野君の想いは十分すぎるほど伝わったよ。こうしてキチンと話してくれて、ありがとう」という前置きの後、志の輔師匠が言いました。

「なんてったって、声優の経験がほとんどないもんですから、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、力一杯やらせていただきます。そのかわり、この話を引き受ける上で、条件が一つだけあります」

どれだけ厳しい条件を出されようとも応える覚悟はできている僕に、志の輔師匠が言いました。

「僕は西野君よりもずっとずっと先輩だから、キミがアフレコの現場で僕に気を遣ってしまうことがあるかもしれません。だけど、『えんとつ町のプペル』はキミと、キミの挑戦を支えてくれた方々が、何年も何年も大切に育ててきた作品です。だからどうか、僕の声が至らなかったら、一切の遠慮を捨て、キミの納得がいくまで、何度でもやり直してください」

行動にはリスクが伴います。行動さえしなければ、浅く済んだ傷もあるでしょう。たまたま巡ってくる運命を待てば、派手にコケることもありません。未来を迎えに行くとき、僕の膝はいつも震えています。だけど、ときどき、西麻布の鰻屋さんのような夜があります。

この作品を、早く届けたいな。

(第10回は10月26日[月]更新予定)

映画『えんとつ町のプペル』本予告より。絵本には登場しなかった、壮大な物語の主人公・ブルーノのビジュアルがついに公開された
映画『えんとつ町のプペル』本予告より。絵本には登場しなかった、壮大な物語の主人公・ブルーノのビジュアルがついに公開された

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

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PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本作家デビュー。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数50万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。

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  • 映画『えんとつ町のプペル』(12月25日[金]公開予定)誕生の背景とそこに込めた想いを語る連載第9回
  • 【画像を見る】映画『えんとつ町のプペル』より。希望の見えない今年だからこそ、「煙の向こうの星を探しに行く」この物語に勇気をもらえるはずだ
  • 幼くして父親を失った少年・ルビッチの前に突然姿を現したゴミ人間・プペル。折れそうな心に寄り添う仲間の存在が、少年を強くする
  • 映画『えんとつ町のプペル』本予告より。絵本には登場しなかった、壮大な物語の主人公・ブルーノのビジュアルがついに公開された
  • 過去に誰も演じたことのない「ゴミ人間」という、正解のない難役を務めるのは俳優の窪田正孝。ピュアで包容力溢れる演技は必見だ
  • 『えんとつ町のプペル』はルビッチの成長の物語でもある。か弱い存在のルビッチが信じ続ける強さを身につける軌跡を、芦田愛菜が表現する
  • 25歳当時、自身の活動に絶望を感じていた西野に「星空」の存在を舞台上から教えた恩人、立川志の輔がブルーノの声を務める

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