それほどまでに奥平が光を放つ理由は、「MOTHER-」脚本・監督を務めた大森立嗣氏の言葉から推察できる。
「彼が偉かったのは、演技の中で嘘をつかないことをやり通せたこと。素直だからこそ、嘘をつくのは嫌だという感覚が本人の中にあって、嘘をつかないためには自分がそこでどういう気持ちにならなければいけないのかという作業を、撮影中の彼は常にしていたと思います」と大森監督。
決して表情や仕草だけを取り繕うのではなく、心の中までその役柄そのものになり代わって同じ気持ちを体感する。それを初演技にしてやってのけたのだという。
奥平自身、「MOTHER―」で印象深かったシーンを問われ、こう答えている。
「お母さんと並んで橋を歩くシーン。周平に決断が求められる場面で、ワークショップでも事前に練習をしていたんですけど、全然うまくいかなくて。悩んだままだったんです。でも本番に臨んだら、長い沈黙の中でポツリと言われるお母さんからの言葉が、すごく重く入ってきて。さらに自分たちの目の前を歩いている冬華(浅田芭路)を見たら、『もうやるしかないんだ』って自然と周平の気持ちになれたというか。撮影の中で一番、何も考えずに素の感情に任せてセリフを言えたシーンなのかなと思いますね」。
そんな“素直さ”は、共演した長澤まさみからも絶賛されている。奥平の演技について、長澤は「感じたことや思ったことを素直に反応してくれたので、今回、私はとても助けられていたように思います。そこで生まれた感情に大きく揺れ動く姿と対峙することで、自分も素直に演じることができました。お芝居は、その瞬間瞬間の感情を表現することが大切だと改めて感じさせられました」とコメント。その言葉には、同じ俳優としての敬意すら感じられる。
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