岩井俊二監督が異色のヴァンパイア映画に蒼井優を起用した理由とは

2013/03/09 07:00 配信

芸能一般

脚本・監督・音楽・撮影・編集・プロデュースとひとり6役を務めた岩井俊二監督

岩井俊二監督が手掛けた異色の吸血鬼映画「ヴァンパイア」のBlu-Ray&DVDが3月20日(水・祝)にリリースされる。

同作は岩井監督が「花とアリス」('04年)以来8年ぶりに手掛けた長編。ネット上で自殺志願者を探し、その血を求める現代のヴァンパイアの姿を、静かで耽美的な映像でつづっている。撮影はすべてカナダで行われており、唯一の日本人キャストである蒼井優も含め、全編セリフは英語という点も異色だ。岩井監督に本作に関する話を聞いた。

――久しぶりの長編劇映画です。なぜ日本ではなくカナダで撮影されたのでしょう?

言葉の問題があるんですが、そこをクリアしてしまえばどこでも映画を撮れるので、まずは英語圏でやろうかと。これができて、これからいろんな国で撮れるかなと楽しみにしてます。

――海外で映画を撮るメリットは何でしょう?

日本で撮れない話が撮れることですね。金髪の人たちの出る話が頭に浮かんでしまったらそれを撮ればいいし、アフリカの話を思いついたらアフリカで撮る。それを日本に全部無理やり置き換えないと撮れないなら、まずいだろ自分は、という風に思っています。

――交換留学生役で蒼井優さんが出演しています。

彼女とは割といろんな不思議な縁があって、過去の作品もそうなんですけど、気がつくと彼女がやってる事が多くて。まだこの映画の話を誰にもしてないころ、僕がロスにいるとき、彼女もちょうどCMの撮影があってロスに来たんです。いっしょに食事することになり、「いまこんな話考えててさ…」と話してると、「あ、それもらった!」と言われて。もちろんまだその段階では決めませんでしたが、言われてみれば確かに合うよなと。

――タイミングがいいですね。

でもこれ高校生役だよって言うと、「私この間外国のオーディションで、大学生役で若すぎるからって落とされた」と(笑)。「見た目が若すぎるって落とされたから、高校生全然いけるよ」って。それでやってもらったんですが、高校のシーンで本物の16歳とか17歳に囲まれて、彼女が誰よりも若く見える(笑)。他の子たちほんとに高校生なの?って。

――近年は「トワイライト」シリーズや「モールス」('10年)など、従来とは変わったアプローチのヴァンパイア映画が目立ちます。この作品もそうした異質なものを感じます。

自分の中では、異端者の物語だと思っています。「人間失格」、「異邦人」、「罪と罰」、「ライ麦畑でつかまえて」とか「アルジャーノンに花束を」も含めた王道のライン。異端男子の肖像というか苦悩ですね。こういうのが好きなんです。ずっと憧れていて、やってみたいジャンルでした。実はほとんどやったことがないんです。高校時代から「人間失格」を映画にしてみたい、でも無理だなと思っていました。

――主人公がヴァンパイアだというのは彼のうそで、単なる孤独な猟奇殺人鬼なのではないか?というようにも感じました。

ある種の比喩なので、本物のヴァンパイアの話だとたぶん「ヴァンパイア」というタイトルにはならないですね。実際にアメリカなんかだと同じようなことやって逮捕されてる人が結構います。この作品の編集中には、ホームレスにお金を渡して血をもらっている兄弟が、もうあげないと言い出したホームレスを暴行して逮捕される事件がありました。

――監督の過去作「リリイ・シュシュのすべて」('01年)では、主人公が生きる救いを求めてネット上のBBSにアクセスしますが、「ヴァンパイア」では自殺サイトが登場し、逆にネットが死への入り口になっています。

「リリイ・シュシュのすべて」は、インターネットの中に救いがあったわけではなくて、結局どこにも救いがないという、自分が作った中でも最も残酷な話でした。「ヴァンパイア」はあくまでそれに比べると他人同士の出会いのツールになっているだけですが、いずれにしても現代を描くのに、こういう別の人格を使い分けるコミュニケーションのことは避けられなくなってきてる気がします。多層構造の人間関係。役割が変わると人格も変わる。リーダーをやってるとリーダー然としてくるし、脇を任されると脇役然とするじゃないですか。僕も撮影現場行ったらリーダーなので陣頭指揮取らなきゃいけないですけど、親戚の法事に行くと次男坊なので隅っこにいておとなしくしてますからね(笑)。そこで仕切れって言われても、え?って感じでヘドモドしちゃいますけど、そういったことが逆に面白い。そういう作品を今後も作っていくんじゃないかと思います。

なお、岩井監督が手掛けたドキュメンタリー「friends after 3.11【劇場版】」のDVDも「ヴァンパイア」と同日に発売される。監督が東日本大震災後に出会った人々と現在や未来について語り合う作品で、こちらも要チェックだ。