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「トットてれび」獅童が見た“誰も知らない渥美清”

2016/06/10 05:00

「トットてれび」渥美清役の中村獅童が渥美への思いを語る!
「トットてれび」渥美清役の中村獅童が渥美への思いを語る! (C)NHK

満島ひかり黒柳徹子に扮(ふん)し、テレビ草創期の人々の姿を描く「トットてれび」(NHK総合)が人気を博している。物語の後半では、各話で徹子と親しかった人を一人ずつ取り上げているが、6月11日(土)の放送では徹子と渥美清とのエピソードが描かれる。

その渥美を演じているのは中村獅童だ。獅童は、渥美と直接話したことはない。しかし、一度、歌舞伎座で目撃した渥美の姿が、今回の役作りに生かされているという。芸能に身を尽くした渥美への尊敬の念や、自身の仕事観を余すことなく語ってくれた。

――今回、“渥美清”役のオファーを受けたときの率直な感想はいかがでしたか?

最初は「できない」と言いました。怖いし、「どうして俺が渥美さんなんだ?」と思って。でも、ものすごく恩義のあるプロデューサーからお話をいただいて、満島さんも(森繁久彌役の)吉田鋼太郎さんも、みんな同じことを言っていると聞いたときに、「ああ、みんな怖いんだ」と思いました。それはそうですよね。俺もプレッシャーですが、黒柳さんなんて、まだご存命ですから。

でも、「テレビの世界を使って、遊びましょう」という井上(剛)監督の話を聞いて、「なるほど」と思いました。物まねじゃなくて、自分たちの持っている今の力で、どこまで見ている人たちに納得していただけるかを目指すときに、「(戦うのは)俺一人じゃないんだ」と思って肩の荷が下りました。自分が出ているから言うわけではなくて、NHKのドラマは戦っているなと思います。

ある意味、“戦う”ということが僕らの仕事なんです。“歌舞伎”という伝統の中で戦うこともそうですし。だから、「NHKという伝統の中でどれだけのことができるんだろう」という今回の挑戦に共感したんですよね。

――獅童さんは、今回の作品以前から、渥美さんに思い入れがあるということですが、それはいつごろからですか?

子供のころからですね。渥美さんは“時代の象徴”として、いつもいたんです。今、そういう人っていないですよね。それは、芸能に夢を求めなくなったからだと思うんです。昔は「俺たちができないことをやってくれよ」って、スターに夢を見ていたけれど、今はそうじゃない。だからこそ、芸能に夢を求めない時代に、こんな夢みたいなドラマをやるっていうのは、挑戦だと思うんです。

僕は世代的にテレビ世代ですし、家族で決まった番組を決まった時間に、「始まるから、みんなで見よう」って言っていた世代ですよ。今回のドラマは、出演者だから1話完成するごとにDVDをもらっているのですが、正直に言って1回も見ていないです。ちゃんと土曜の夜8時15分に始まるのを待って見ている。決まった時間に見ていた当時のドキドキ感があるんですよね。

それにしてもね、渥美さんって、演じていても泣けるんですよ。なぜかは分からないけど。僕ね、結構歌うまいんです(笑)。でも、渥美さんの回で歌うシーンでは、込み上げてきちゃって全然歌えなかった。やっぱり思い入れがあるんでしょうね。

――渥美さんに直接お会いしたことはあるのですか?

会ったことはなくて、僕が一方的に見ていたんですね。歌舞伎座で。まだ若いとき、並んでずっと座っている役しかもらえなかったときのことですが、顔を上げると、目線の先、客席に渥美さんがいらっしゃったんです。

だから、全くのプライベートの渥美さんを、一方的に見ているだけですよ。でも、誰も知らない渥美さんの顔を見ちゃったような気分で。みんな「渥美さん、渥美さん」って言っても浮かんでいるビジュアルは“寅さん”じゃないですか。違うんですよ。白いシャツをパリッと着て、チノパンか何かをはいて…。僕らの時代で言うところの“ジーンズに白いTシャツが一番格好いいよね”というのと同じニュアンスで、「これは、こだわりがあってこういう格好なんだろうな」って思わせるんですよ。もちろん聞いたことわけではないから分かりませんけど、僕の中では渥美さんというとチノパンに白いシャツのイメージなんです。

でも後から聞いたら、歌舞伎でも下北沢の小劇場でも、思い付いたらパッと入るような方だったそうです。芝居が好きなんでしょうね、やっぱり。うちの母親も、俺が小さいころから、ストリップもテントでやる芝居も、劇団四季も宝塚(歌劇団)も全部見せてくれたし、うちの錦之介の叔父(萬屋錦之介)もそういう人でした。

今、ちょうど(渋谷・シアターコクーンで行われる)コクーン歌舞伎の稽古中だから、いろんなことを思い出すんですが、錦之介の叔父が最後に歌舞伎をやった同じ月に、(中村)勘三郎兄さんが作ったコクーン歌舞伎の第1回があったんです。そのときに錦之介の叔父はがんだったんですが、見に行ったんですよ。気になったんでしょうね、“渋谷で歌舞伎をやる”っていうことが。俺の想像ですけど、たぶん渥美さんもそういう人だっただろうなと思います。

――今回演じてみて、あらためて渥美さんの魅力はどういうところに感じますか?

言葉にはできません。ただ、渥美さんの話をすると込み上げてくるんです。それは理屈じゃないです。

ただね、うちの錦之介の叔父と「沓掛時次郎 遊侠一匹」('66年)って映画をやっているのですが、これは自分の叔父だから言うわけではなくて最高傑作だと思っています。錦之介の叔父は、流れ者の役なのですが、前半で一緒に旅する相手が渥美さん。それが、まあ、うまい。だから俺の中では渥美さんは、“寅さん”である以前に、“錦之介の叔父と芝居をしていた、すごい格好いい役者”だったんですよ。そんな人の役をやってくれと言われたら、普通断りますよね。即刻「やります」という人はなかなかいないと思います。

――そういう難しい役を、どのようにして詰めていったのですか?

どう演じるか考えていたんですが、答えはとてもシンプルでした。「トットてれび」の前半は、徹子さんたちが生放送に出ていた時の話なんですね。俺たちの世代だと、徹子さんの番組といえば「ザ・ベストテン」「徹子の部屋」なので当時のことを知らない。まして、コントをやっていたときや、生放送で苦労されていたときの黒柳さんや渥美さんを画面越しに知っている人はいても、その舞台裏は誰も知らないわけです。

その舞台裏を想像して演じていく…それが役者の仕事です。うわべだけまねして、コスプレしてやるのではなくて、「獅童、ミスキャストだと思っていたけど、もしかしたら渥美さんはこんな人だったのかも」と説得力を持たせることが、役者の醍醐味(だいごみ)ですね。

最初は「似ているのは目が細いくらいだし、俺に何を求めてオファーしてくれたのかな」と思っていたのですが、プロデューサーに「あなたにしかできない芝居があるはずです」って言われたんですね。それを聞いて「あ、『自分で作れ』と言われているんだな」と気付いて、「説得力を持たせればいいじゃないか」と腹をくくりました。

――実在の人物を演じることは、やはり難しいですか?

ドラマを見ていただいたら分かりますが、ファンタジーでありメルヘンですよね。実際、実在の人物を描くときに、当時を再現したいだけなら再現フィルムでいいと思うんです。そこに役者が肉付けする理由は、やはり 、そこに“夢”を求めるからなんです。僕も昭和の時代を生きて、テレビに夢を求める時代に育っていますから。

僕は、良いことも悪いことも、ニュースも、プロレスも、歌も、全部テレビで教わった。でも、そのテレビというものはダメになりました。そこにみんなが夢を求めなくなった。だから、いろんなことを試すんです。テレビがダメになったと言っても「テレビは、もうつまらないから、歌舞伎だけやっておこう」とは言えないんですよね。僕らは表舞台に立たせていただく人間だから、「じゃあ、おまえがテレビの世界をどれだけ面白くできるんだよ」って自問自答して、責任を持たないといけないと思っています。

――表舞台を生きるという意味で、渥美さんを演じてあらためて感じることはありますか?

渥美さんは、あの当たり役に出合って、寅さんとして一生を生き続けましたが、「みんながつらいとき、悲しいときに、寅次郎を見て元気を出して」という思いで、ずっとやっていたのだと思います。役者になって、“舞台で面白いことを言っても、人はなかなか笑わない”ということを学んだのですが、渥美さんは人を泣かせたり笑わせたりすることに人生を懸けていたんだなとあらためて感じます。

戦争に負けたけど、ひばりさんの歌に癒やされて、渥美さんの映画を見て笑顔になる。エンターテインメントは、そんな“一瞬の夢”だと思うんですよね。歌舞伎もそうですが、その空間に入った瞬間、みんなで同じ空気を吸って、芝居を見て泣いたり笑ったりする。でもそこから一歩出た瞬間に、それぞれの抱えている人生が待っているわけじゃないですか。そんな一瞬の夢に、命を懸けた人なのだろうなというのが、今回やってみて思ったことですね。

――6月11日(土)放送では、黒柳さんと渥美さんとのエピソードが描かれますが、印象的だったことはありますか?

ドラマの中で「徹子の部屋」のシーンがあって、その後、たまたま本当の「徹子の部屋」に出る機会があったんです。これは正直、何が何だか分からなくなりました(笑)。作中で、渥美さんと黒柳さんが、正月にお忍びで「男はつらいよ」を見に行ったエピソードがあって、そのことを話したのですが、黒柳さんも懐かしそうで「泣けてくるわね」とおっしゃっていました。

お二人の関係って、今なら、すぐに週刊誌に交際を疑われると思いますが、でも世の中には男女の仲を超える瞬間というものがあるんでしょうね。なんといっても、その時代を戦い抜いた同志であり戦友ですから。ただ、僕自身は、ちょっとした恋心もあっただろうと想像して演じています。戦友にほれるというのは、普通の女性にほれるのとは少し違うんです。もちろん想像でしかないですけど、“演じる”ということは“想像する”ということですから。

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

「トットてれび」
毎週土曜夜8:15-8:43
NHK総合にて放送中

画像一覧
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  • 「トットてれび」渥美清役の中村獅童が渥美への思いを語る!
  • 【写真を見る】「トットてれび」6月11日(土)放送では黒柳徹子(満島ひかり)と渥美清(中村獅童)の出会いと別れが描かれる
  • 中村獅童は渥美清役を「最初は『できない』と断った」と明かす
  • 獅童は「渥美さんはエンターテインメントという“一瞬の夢”に人生を懸けた人」と語った

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トットてれび

出演者:満島ひかり 中村獅童(二代目) ミムラ 濱田岳 安田成美 大森南朋 武田鉄矢 吉田栄作 岸本加世子 吉田鋼太郎 黒柳徹子 小泉今日子 

関連人物

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