19日(日)に最終回を迎える「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)で、柳楽優弥演じる道上まりぶの父親・麻生厳役を演じている吉田鋼太郎。12日放送では、2人の親子関係に涙した視聴者も多いはず。不器用ながらも息子を思う父親ぶりを迫真の演技で見せた吉田に、あらためて芝居への姿勢を問うべくインタビューを敢行!
意外にも宮藤官九郎脚本の作品への出演は初だったという吉田。「『出てそう』とは言われるんだけどね」と笑う彼に、宮藤作品の魅力を尋ねる。
吉田:個人的に「あまちゃん」(’13年NHK総合ほか)や「木更津キャッツアイ」(’02年TBS系)、映画「ピンポン」(’02年)も見ていて、とても面白かった。(「ゆとりですが―」の脚本を読んだ)最初の印象としては、宮藤さんらしい作品だなって。「ゆとりですがなにか」というタイトルも、軽いタッチが持ち味の彼らしいものですよね。起承転結もよく出来ているし、岡田(将生)、松坂(桃李)、柳楽のキャラクターが明確で、取り巻く人たちも無駄がない。すごくよく出来たホン(脚本)です。
そんな物語の中で、吉田ふんする麻生は、まりぶの母親との離婚後に若い女性と再婚し、趣味で“レンタルおじさん”をしている。
吉田:“レンタルおじさん”って、知らなかったですね。宮藤さんの創作だろうと思ってたんです(笑)。でも、実際にあるんですって。世の中にそこまで浸透しているサービスでもなさそうだったから、そういう意味では自由にやっていいのかな、って。“レンタルおじさん”をこうやらないといけない、というのはないですから(笑)。
また、麻生には元サーファーという設定もあるが、吉田は「僕にサーフィンの経験がないから、そこは無視(笑)。(劇中にあった)説明で十分です」と笑う。吉田と岡田、松坂、柳楽との絡みも楽しい本作。中でも訳ありの親子を演じている柳楽とは、こんなやり取りも。
吉田:柳楽の役がかなりぶっ飛んでるでしょ。彼から一度、相談されたことがあるんです。「鋼太郎さん、これ、どこまで振り切ればいいんですかねぇ」って。基本、僕らは伏線だから、振り切ってにぎやかにした方が刺激になっていいんじゃないかって話して、アドリブもどんどん入れさせてもらいました。
9話はまさに、そんな2人の本気のぶつかり合い。体も張った演技に、あらためて吉田鋼太郎の演技力を見せつけられた回でもあった。そんな吉田は4月クール、「トットてれび」(NHK総合)にも昭和の名優・森繁久彌役で出演。7月から始まる「好きな人がいること」(フジ系)、「刑事7人」(テレビ朝日系)にも出演が決まっている。CMなども含めてテレビで見ない日はないくらい活躍中の吉田だが、「自分は絶対、運があると思う」と語る。
吉田:役者として、売れる・売れないとか、いろんな人に認知されるという要素も必要。そういう意味では、40歳くらいまで運がないと思っていたんです。ただ、仕事はきっちりもらっていて、要所要所でそれなりに評価はしていただいた。星の数ほどいる俳優の中で、そういう現場を与えてもらい、賞をもらい、「これは相当運がいいな」と思っていましたね。それから蜷川幸雄さんに出会って、それが運がいい第2段階。蜷川さんとの出会いで、さらにいろいろな人に注目されるようになって。テレビに出るようになってからは、例えば「花子とアン」(’14年NHK総合ほか)や「MOZU」(’14年TBS系)でいい役をいただいて、ちゃんと評価もいただいた。それは、めちゃくちゃ運がいいと思うんです。
吉田の「運がいい」は謙遜の言葉に思えるが、あまり認知されていなかったという40歳くらいまでの間に、役者という仕事を諦めよう、と思ったことはなかったのだろうか。
吉田:ん〜。芝居が好きなんだよね。信じる力ももちろん必要で、それがないとダメだったような気もするけど、芝居しかやることがない。芝居を取ったらダメ人間になるから。社会性もないし、稼ぎもないし、稼ぐ腕もないし、満員電車も絶対に嫌だし(笑)。社会人としての生活が送れないから、芝居ができたらお金がない生活でも別にいいんです。いい服を着たいとか、いい車に乗りたいとかも思わない。まあ、ちょっとは思ってるかもしれないけど(笑)、それは自分にとって必要なことじゃない。(いい服を)着ないなら着ないでいい。それは諦められることだから」。
かつては癖のある役や悪役が多い印象だった吉田も、「花子とアン」の不器用で愛情深い嘉納伝助から、「東京センチメンタル」(テレビ東京)の自身に近いという久留里卓三、「ゆとりですが―」のレンタルおじさん・麻生などまで、幅広い役柄をきっちり演じきる。「芝居が好き」とよどみなく話す吉田は、自身の中で絶対に守ってきたことがあるようだ。
吉田:大抵はね、自分のキャラクターに合った役がくるんですよ。僕の場合は、強面だったり、悪役。でも、それだけをやっているとダメ。ときど〜き、本当にこれは無理だって思うような役がまわりまわってくるんです。使う側の中に「この役を吉田鋼太郎にやらせてみたい」ってトリッキーなことを考える人がいるわけ。それをものにすると、自分はやれないと思っていたけれどできたことが1個増える。2~3年経って、また同じように新しい役がきて、またやれた、と。そういうことが何回かあったんです。でも一方で、「あの役者、全然ダメじゃん」って思われることもあるから、賭けだよね。だからそういうときは、いつも以上にすごく頑張る。そうすれば必ず、役者として1個大きくなる。もちろん苦痛で大変だけど、自分で選んだ役者という職業なのに「これはできない」とか言っちゃうと、自分で自分をダメだって決めちゃうことなので。そうすると結局、次にいけない。あれを断ってしまったダメな役者だな、って自分で自分をダメだと思いながら生きていくのは、とてもじゃないけれど嫌だから。だから、当たり前のことかもしれないけど、無理だと思うことこそ徹底的にやった方がいいんです。
一方、私生活では「無理なことは無理って言っちゃう。一切、頑張れない」と笑いながら答える吉田。その真偽は確かめようもないが、とにかく芝居が心底から好きなのだと感じる。
吉田:やりたくもない仕事をちゃんと一生懸命やっている人も多いでしょ? 僕は好きでやってるわけだから、申し訳ない。本当はお金なんてもらわなくてもいいくらいなんです。見にきてくれて「あぁ、良かったよ」って言ってくれたらOKなんだから。やらせてもらっているだけでもありがたいわけだから。これでお金をもらおうなんて、本当に贅沢の極みだと思うよ。
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