ソフィ・カルの「哲学的尾行」をモチーフに、直木賞作家である小池真理子の同名小説を気鋭の映像作家・岸善幸が大胆に脚色して映像化した「二重生活」。尾行する者と尾行する者を見つめるそれぞれの“視点”が複雑に絡み合うスリリングな物語が展開される。
映画「愛の渦」('14年)や、連続テレビ小説「まれ」('15年、NHK総合ほか)などで注目を浴びている門脇麦が、教授から「哲学的尾行」の実践を持ち掛けられるヒロインの大学院生・珠を好演。尾行の疑似体験秘話や、肉体的にしんどかった(?)撮影エピソード、共演者の印象などを語ってくれた。
――脚本を読んだ感想は?
まず最初に原作を読んで、その後に脚本という順番でした。細かい部分は違っていたりしますけど、物語の流れや空気感はそのままで。割とすんなり読むことができました。ただ、どうやって映像化するのか、想像が付かなかったです。
――演じる珠という女の子の印象は?
珠は過去に悲しい出来事があって、自分の感情にふたをするように生きてきた女の子。今の若い世代というか、私自身も共感できる部分ではあるんですけど、大人になるに連れて自分の本当の気持ちにふたをしている方が楽なのかなと。楽な方、楽な方へと生きてきたがために自分の感情にすごく疎くなったり、マヒしてしまったところがあるような気がするんです。珠も、本当に悲しい時に悲しいという感情が湧かなかったり、どこかモヤっとしているような孤独感が常に付きまとっているのかなと思いました。
――珠の心情がよく分かる?
「尾行」するという行為は、あまりにも日常生活とかけ離れているので、それはやってみないと分からないことではありましたけど、ベースとして彼女が持っている部分は理解できました。
――岸(善幸)監督からは何かアドバイスされましたか?
細かい人物設定やシーンの説明があったぐらいで、演技に関しては特になかったです。毎回、撮影が終わるたびに「違和感はなかったですか?」と聞かれましたけど。
――その時は、どう答えたんですか?
「違和感はないです」って答えると、それでOKだったみたいで。監督から信じてもらっているなと感じる一方で、責任重大だなと不安に感じることもたくさんありました。だから、私からも「今日は大丈夫でしたでしょうか?」って、お互いに確認し合っていましたね。
――珠が尾行するシーンは、どんな気持ちで演じていましたか?
珠は、いろいろな人との関係や出来事を“いい塩梅”にしようとするところがあるんです。それは、自分が傷つかないための行為で、決して人を傷つけないためにやっているわけじゃない。そんな自己中心的な珠のことを好きになれるかどうか不安でした。でも、尾行シーンはそんな珠のキャラクターを考えずに、ただただ尾行するという行為に集中すれば良かったので気分が軽かったです。
その私の感情と、劇中の珠の感情がちょうどいい感じにかぶっていて。自分のことを見て見ぬフリしている女の子が他者に目を向けることで現実逃避できる。尾行シーンでは、そういう興奮を感じられたのかもしれません。
――尾行を疑似体験した率直な感想は?
映画の中の尾行ですから現実ではあり得ないシチュエーションだったりするけど、背徳感と言いますかスリルがありました。見てはいけないものを見ているような気がして、ちょっとワクワクしましたね。
――珠の同居相手・卓也を演じた菅田将暉さんとのシーンは、とても自然な感じでしたね。
珠と卓也のシーンは段取りがほとんどなくて、監督からこういう状況で2人が暮らしているという説明を受けて「あとは自由にどうぞ」って言われて。カメラマンの夏海(光造)さんも監督と同じドキュメンタリー出身の方なので、撮影は常に手持ちカメラ。どう動いても撮ってくださるんです。
360度全部を切り取られる現場は演技だけではごまかせなくて、私情も全部持ち込んでカメラの前に立たなければならない。だから、2人のシーンでは普通にあの部屋で生活していたような気がします。菅田さんとは以前共演したことがあるので、一緒にいることに無理がなかったですね。
――2人でカップラーメンを食べる場面が印象的でした。
あのシーンは、カメラアングルの関係で何回も撮ったんです。珠の感情をあふれさせたくなかったので、その思いを止めるためにはどうしてもすごい勢いでラーメンを食べたくて。セーブしないで最初から本気で食べていたから1カット撮るたびに1杯食べ切ってましたね。結局、5杯ぐらい食べたのかな?
あんなにたくさんラーメンを食べたのは初めてだから、さすがにお腹がいっぱいでした(笑)。
――共演者の長谷川博己さん、リリー・フランキーさんの印象は?
リリーさんとは以前舞台でご一緒して、その時は親子役だったんです。久しぶりの再会でしたけど、菅田さんと同じように無理のない空気感の中でお芝居できました。長谷川さんとは、今回が初めて。とても気さくな方という印象です。長谷川さんとは半分ぐらい尾行シーンだったので、背中を見る機会が多かったですね。背中だけでも格好いいなと思いました。
――映画のポスターに「理由なき尾行、はじめました」というコピーが書かれていますけど、門脇さんが理由なく始めたいこと、もしくは何となくやってみたいなと思うものはありますか?
街歩きがしたいですね。全然土地勘がない駅で降りて、ひたすら街を練り歩きたい。行くとしたら下町がいいです。いろいろなお店を探しながらブラブラしたいです。
――では、最後に作品の見どころをお願いします。
誰かを尾行するというスリルとサスペンスを楽しみながら“哲学”というキーワードが出てくるので思考も刺激される作品。珠の成長物語を含め、登場人物一人一人の気持ちや心の揺れを感じながら見ていただけたらと思います。
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