大河ドラマ「真田丸」(NHK総合)の10月9日(日)放送では、大坂の陣の開戦直前の様子が描かれる。信繁(堺雅人)が九度山で長い謹慎生活を送っている間に、豊臣家と徳川家の関係は悪化。ついに戦に突入しようとしていた。
大坂の陣のきっかけとして知られているのが、豊臣が方広寺の鐘に刻んだ「国家安康」の文字に対して、徳川が「家康の名を二つに割る呪いである」と主張した“方広寺鐘銘事件”。「真田丸」でもこのエピソードが描かれる。
そこでキーマンとなるのが、小林隆演じる片桐且元だ。石田三成(山本耕史)亡き後の豊臣家を支えようと身を粉にしていた且元だが、思いとは裏腹に豊臣を追い詰めてしまう。そんな小林を直撃し、且元役に込めた思いと劇団「東京サンシャインボーイズ」時代からの付き合いである三谷幸喜とのエピソードを語ってもらった。
――豊臣と徳川の調整役として板挟みになる且元を、どんな人物として見ていますか?
今回はとても情けない人間になっていますが、最初は坪内逍遥が書いた歌舞伎「桐一葉」(且元を主人公として関ヶ原後の大坂を描いている)をイメージして役作りしたんです。
最初は三谷さんも「せっかくの大河だから、格好良くしたいよね」と言っていたのですが、「いや、めちゃくちゃ情けなくても面白いな…」と言い出して。どうもそちらに、かじを切ったようですね(笑)。
そういうわけで、今回は何をやっても裏目に出る、人生の間が悪い男を演じています。実を言うと、私にも結構そういうところがあるので、「なるほどね、こういうところを見て書いているのか」とも思います。ただ、且元はきちんと相手と話をして、相手の気持ちを考えてあげる馬鹿が付くほどの正直者。要領は良くないですが、そもそも要領良くやろうとしていない節もあります。
――“間の悪い”且元をどんなふうに演じようと思いましたか?
関ヶ原以降、豊臣と徳川の間でかなり高いレベルの政治的判断をする立場なので、書かれているキャラクターはズッコケだけど、絶対にそこだけは押さえていようと思いました。
しかし、出てくる本、出てくる本、駄目な男に描かれているので、「これじゃ、当初のキャラクター設定は保てないな」と(笑)。特に、(聚楽第に秀吉を批判する落書きが見つかった)“落首事件”のときに、秀吉(小日向文世)に落書きを報告してしまったところで「ああ、こりゃだめだ…」と思いました。まあ、あれはストーリー上、仕方がなかったんですけどね。そのために新しいキャラクターを出すわけにもいかないので、ズッコケ且元の役回りになったのだろうと判断しました。
だから、キャラクターの設定には、最初ずいぶん悩みました。史実と作家との板挟みですよ、これは。究極の板挟み(笑)。
――逆に、且元の魅力はどんなところに感じますか?
歴史上の人物と言えば、どうしても立派にイメージしがちですが、今回は、且元に限らずすごく人間味のある部分が描かれています。等身大というか、「本当は、こんなもんだったんじゃないか」と思います。そういう意味で且元は、良かれと思ってしたことが裏目に出るのが人間らしいですね。
――且元の豊臣家への思いはどのように想像されますか?
きっと、三成と同じように「殿下(秀吉)のために…」という思いで、秀頼(中川大志)と茶々(竹内結子)を守ろうとしていたのだと思います。茶々は父が仕えた浅井長政の娘ですから、彼女を守るというのも一つの大きな目的だったと思います。そしてもちろん、殿下に言われた「秀頼を頼む」という言葉も強く胸に刻み込まれているはずです。
でも、共に豊臣政権を支えた三成も加藤清正(新井浩文)も、家康(内野聖陽)にやられてしまうんですね。この間、耕史君とトークショーに行きましたが、「今後の見どころは?」と聞かれて、「豊臣の人材不足です」と言うしかなかった。会場はすごくウケていましたが(笑)。でも、本当に切実なんです。
――そんな且元ですが、10月9日(日)放送では大変な事態に陥ってしまいます。
いわゆる“方広寺の鐘銘事件”を且元の回想で描いているのですが、ずっと、私が一人で話していますよ。全部で39シーンあって、そのうちの26シーンに出ているんです。
――台本を読まれてどのように感じましたか?
彼は豊臣と徳川の関係を安定させようとしているのに、結果として冬の陣の開戦のきっかけを一人で作ってしまう…というふうに描かれていて、「えー!」と思いました(笑)。しかも、豊臣の内部からは裏切って徳川に付こうとしていると思われてしまうんです。その結果、且元は大坂城を出ざるを得ない状況に追い込まれます。
そんなときに、且元は、かつて三成が献上した桃の木を見るんですね。育ってきた桃の木は、秀頼の象徴にも思えて。且元はそれを見て涙すると同時に、「秀頼が、このまま成長しさえすれば…」というかすかな希望を抱くんです。
――これまでの作品の且元は、豊臣を捨てて徳川に付いた“裏切り者”として描かれてきましたが、今回の描かれ方はどのように感じましたか?
徳川に付くまでの且元の心の動きは、台本が来てから考えようと思うくらい整理がつかなかったです。どうして、あれだけ豊臣に尽くしてきた男が徳川に付くのかと思って。でも、今回の且元は情けなく描かれている分、「こういう人間がこの状況に追い込まれたのか。では、仕方ない部分もあったんだろう」と台本を読んで納得しました。
ただ、台本が出来てからスタジオでお会いした竹内さんには「もう!」と言われ、長澤まさみさんには「あ、裏切る人だ!」と言われました(笑)。
――且元は家康をどんなふうに見ていたと思いますか?
家康は、あの織田信長の同盟者ですから、且元にとっては昔から有名人のはずです。そんな家康がいなくなって豊臣を助けてくれなくなったら、まだ若い秀頼だけでは豊臣政権は立ち行かなくなる。だからこそ、尊重していたでしょうし、秀吉亡き後のナンバー1だと認めていたと思います。
作中で、且元が浜松城の家康の元へ使者として行くシーンがあったのですが、家康・本多正信(近藤正臣)・本多忠勝(藤岡弘、)が相手で、完全にアウェーだったのを覚えています。でも終わって、メークルームに行ったら、堺君や耕史君、小日向さんに(豊臣秀次役の)新納慎也君、(福島正則役の)深水元基君という大坂方のみんながいたので、我が家に帰ってきたような安心感がありました。みんな共演経験があって、仲もいいんです。
――三谷さんとは劇団「東京サンシャインボーイズ」時代からのお付き合いということですが、今回の脚本をどのように読まれていますか?
多分、劇団が30年の休団に入って以降、私を一番使ってくれていると思うんですが、今回もすごく難しいシーンを書いてくれていますね。「ちょっと、買いかぶり過ぎじゃないか」とも思いますが、彼が「今の小林ならできる」と思ってくれているのかなと思うと、期待に応えたいなと感じます。でも、いくつも取りこぼしをしているような気もして、「次は、次こそは」と思いながら演じています。
――劇団時代と現在で、三谷さんとの関係は変わりましたか?
今も昔も、劇団の主宰者とメンバーという感じで、あまり変わっていない気がしますね。決して彼は、我々のことを“友達”とは言いませんしね。あと、彼の書いている新聞のエッセー、あの中では劇団員と大泉洋さんだけが呼び捨てなんですね。そこに少し誇らしさはあります。なぜ、彼が入っているのかは分かりませんが(笑)。
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