「給食」。一口に給食と言っても、地域や世代によって思い入れのある料理は異なると思う。筆者の場合は「ソフト麺」をカレーつゆで食べるカレーうどん風のメニューが好きだった。
ただ、東京生まれHIPHOP育ちの後輩女子に同意を求めると「ソフトメンって何すか?『フリースタイルダンジョン』の挑戦者すか?」とか、意味不明なことをぬかしやがる…。あんなにおいしい麺を食べずに育ったなんて、人生の2割3分くらいは損していると言わざるを得ないYO!
冗談はこれくらいにして、各局で放送されているドラマやバラエティーなどを事前に完成DVDを見て、独断と偏見とジョークに満ちたレビューで番組の魅力を紹介する、Smartザテレビジョン流の「試写室」。
今回は10月13日(木)にスタートする、天海祐希の主演ドラマ「Chef~三ツ星の給食~」(フジテレビ系)を取り上げる。
本作は、元三ツ星レストランのシェフが、ひょんなことから学校給食作りに奮闘していく姿を描く。
第1話では、三ツ星レストラン「ラ・キュイジーヌ・ドゥ・ラ・レーヌ」の総料理長・星野光子(天海)が、オーナー・篠田章吾(小泉孝太郎)に無断でゲストの料理評論家に出すスペシャリテを鴨から鹿に変更する。オーナーの篠田は烈火のごとく怒るが、われ関せずの光子は自信満々で料理を振る舞い、好評を得た…と思われた。
しかし翌朝、光子は前日鹿料理を食べた料理評論家が食中毒を起こしたと聞かされる。光子は自分に落ち度はないからと信じず篠田に抗議するのだが、取り付く島もなく辞職を迫られる。プライドの高い光子は、必要以上に食い下がらず、それを承諾して店を後にする。
ところがその後、食中毒のニュースは世界に発信され、光子の評判は地に落ちる。それまであった引き抜きの話も白紙となり、光子は次の職場を見つけることができない。
そこへ、テレビプロデューサー・矢口早紀(友近)から、光子を雇いたいと言っているところがあると連絡が。新しい仕事場となる三つ葉小学校にやってきた光子は、そこで働く小松稔(荒川良々)ら調理師たちのやる気のなさにがくぜんとする。
さらにその小学校には、厳格な栄養士兼調理師の荒木平介(遠藤憲一)がおり、「メニューを決めるのは自分だ」と光子をにらむ。三ツ星を失い、反骨心に燃えた光子は、子供たちが食べたことのない本物の味を教えてやる、とたんかを切る…というストーリー。
まず、当然と言えば当然ながら美し過ぎる料理の数々が見応え十分。前クールも他局のドラマで本格フレンチを扱っていたが、今回も見るだけでおなかが空く美しい料理がたくさん登場する。どこかの巨匠も「星三つです!」と言いたくなるくらいの美しさなので、そこは一見の価値ありだ。
今さら特筆すべきことでもないが、主演・天海はやっぱり格好いい。ある時は被疑者を落とす取調官、ある時はミュージカルスター、そして包丁を持てば一流シェフに見える。それでいて、あんなに独創的な“ラジオ体操”を真顔でやられたら、正直一流のコメディアンでも太刀打ちできないほど面白い。あれは反則です。
格好いい女性が真面目に不真面目なことをやったらこうなる、ということの典型というか、その分野に特化してもコントが一本作れそうなほどのクオリティーだ。
そして同様にズルイなあと、思ったのは荒川良々の“使い方”。元力士なのはいいとして、番付は“ちゃんこ番”だとか、「俺のちゃんこは大人気だったんだぞ」の繰り返し、ちょっと勘弁してくれ…腹筋が崩壊寸前ですよ。
たぶんこの世界観は好き嫌いが分かれると思うが、一度ハマったら最後、その後出てきて普通のせりふを吐いただけでも笑ってしまう破壊力がそこにはある。これは今後、このドラマを見ていく上で逆の意味でつらい。
つらいけど、見たい。見たいけどつらい。そしてどすこい。そんなもどかしいさを感じるのは私だけだろうか。
はい、私だけですね。
そして初回で天海演じる光子を追い出すオーナー・篠田役の小泉。以前は割と爽やか好青年といった役どころが多かったように思えるが、近年は一癖あるイケメンが多い気がする。
昨年の「下町ロケット」(TBS系)しかり、同年「エイジハラスメント」(テレビ朝日系)しかり、ああいう爽やかなルックスの人が意地悪というか、嫌なことをすると余計にヒドさが際立つというか、どん底まで突き落す力を持つのかも。そういう意味では、今回のキャラクターは大正解と言えそうだ。
また、働き者過ぎる遠藤憲一。「いったい年に何本ドラマに出るの?」と言いたくなるほど縦横無尽に働き続けており、彼を見ると自分の仕事量の少なさに頭を抱えてしまう。さしずめ“まいにち、修造!”ならぬ、“まいにち、エンケン!”か?
そんな日めくりカレンダーのごとし遠藤だが、今作では十八番ともいうべき昔気質の職人っぷりを見せてくれる。失礼を承知で言うと、いつもこういうキャラじゃん!って感じなのだが、それを求められるのだから仕方ない。そういう時代なのかも。
やっぱり昭和の古き良き時代には、こういうおっちゃんが、身の回りにいたし、今みたいに子供が電車の中で暴れていても放置するような親がいたら、間違いなく怒鳴り散らしていたはず。
そういう頑固オヤジ臭漂う雰囲気(失礼!)が、恐らく現在ドラマのキャスティングを担当する立場にいる偉い人からすると、どこかにいてほしいのかも。
完全に独断とエンケンいや、偏見で勝手にそう思っているのだが、今回のプライドを持った栄養士も魅力十分なキャラクターだ。
その他、豊原功輔が最近では割と珍しいポジションで出演しているのも好感が持てるし、“朝ドラ”の好演ですっかり女優としての評価が上がった感のある友近のプロデューサー然とした雰囲気。
初回では誰なんだかさっぱり分からないけど意味深に佇む川口春奈に、給食当番のポンコツ集団…と、個性派も個性派、こんなに個性派だと個性がない人の方が目立つんじゃないかというくらいの濃いメンツが脇を固めている。
今後、光子を巡ってどう展開していくのかはまだ分からないが、連続ドラマという大きな“鍋”の中で、一癖も二癖もある魅力的な具材(キャスト)が煮込まれ、お客さん(視聴者)の前に絶品料理がサーブされることを期待したい。
そのスパイスは、松任谷由実の甘いハーモニーであり、視聴者からの甘かったりピリ辛だったりする、反響という名の調味料だ。
格好いい感じのことを言ったつもりで全然まとまっていないのは内緒です。
とにもかくにも、アペリティフからメインディッシュまで、全てが充実した“最高においしい”フルコースともいうべき本作。
個人的に大好きだった「王様のレストラン」('95年)しかり、「ランチの女王」('02年)、「問題のあるレストラン」('15年)しかり、フジテレビのグルメを扱うドラマに外れナシ。
これからどんなに魅力的な給食が出てくるのか、ドキドキとワクワクで腹の虫が鳴りっ放しだ。
それはそうと、おじさん記者にはもう給食を食べる権利はないのだが、今、給食を食べる環境にいる人は一回一回の給食を大事にしてほしい。数年後、必ず恋しくなるはずだから。
まさに「孝行のしたい時分に親はなし」ならぬ「給食食べたい時分にメシはなし」かな。このドラマを見て、少しでも給食を残さず食べようという意識になってくれたら、作り手としてもうれしいのではないだろうか。
さて、ではおじさんはわが家のキュイジーヌでタマゴカケゴハンを調理しよっと。
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