【テレビの開拓者たち / 植田博樹】「地上波のテレビでもできるし、ネットで見ても面白い、というドラマを作るのが理想」
堤幸彦を演出に迎えた自身の代表作「ケイゾク」(1999年TBS系)と、その系譜を継ぐ「SPEC」シリーズ(2010年~TBS系)の完結編となる「SPECサーガ完結篇『SICK'S 恕乃抄』〜内閣情報調査室特務事項専従係事件簿〜」が、この春、新たな動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で配信を開始。プロデューサーの植田博樹氏は、これまで、「ケイゾク」や「SPEC」のみならず、空前の高視聴率を記録した「ビューティフルライフ」(2000年TBS系)など、まさにTBSドラマを牽引し続けてきた“テレビの開拓者”だ。そんな植田Pに、ネット配信という新たな世界、また対する地上波テレビの可能性について聞いた。
「SICK'S」の木村文乃さんと松田翔太さんのバランスは、「SPEC」の当麻と瀬文に近いかも
──「SPECサーガ完結篇『SICK'S 恕乃抄』」が、TBSも参画した新しい動画配信サービス「Pravi」でスタートします。「ケイゾク」を受け継ぐ「SPEC」シリーズとしては、4年半ぶりの新作ですね。
「僕としては、『SPEC』はあと1作で完結するつもりでいて、前作から10年後…2023年くらいに新作を作りたいなと思ってたんですけど、TBSオンデマンドのスタッフから、『オリジナルのネットドラマをやりたいんだけど、その1作目を堤さんとやってもらえないか』という話をいただいて。だったら、このタイミングで『SPEC』の完結編をやろう、と。堤さんも、『チャンスをいただけるのはありがたいことだし、10年後と言わず、いつでも!』とおっしゃってくれて」
──シリーズ完結編とはいえ、完全オリジナルのストーリーだそうですが、どういった内容になるのでしょうか。
「前作までは、『SPEC』の黎明期というか、超能力を持った人間が犯罪に手を染めたら…という物語だったんですが、今回はその能力を人工的に作ろうとする、進化に取り憑かれてしまった人間の話をやりたいなと。古今東西のSFの世界ではメジャーなテーマではあるんですけど、『ハンドク!!!』(2001年TBS系)のときに、脚本家の大石静さんが『進化とは“病”である』とおっしゃっていて。ちょうどいい進化でとどまればいいんだけど、エスカレートしていくと、それはもはや一つの病なんじゃないか、と。その大石さんの言葉を無断で拝借して、『SICK'S』というタイトルにしました(笑)」
──戸田恵梨香さんと加瀬亮さんに代わる主人公の男女コンビには、木村文乃さんと松田翔太さんが発表されました。
「当麻(戸田)と瀬文(加瀬)の物語は前作で完結したので、新しいコンビを作ろうと。文乃さんと松田くんというキャスティングは、堤さんの案です。僕は、文乃さんとは『神の舌を持つ男』(2016年TBS系)や『A LIFE~愛しき人~』(2017年TBS系)でご一緒していたこともあって、『99.9-刑事専門弁護士-SEASONⅡ』(2018年TBS系)の撮影の合間を縫って、参加していただきました」
──また、「ケイゾク」「SPEC」で野々村光太郎を演じた竜雷太さんの出演も決定しています。
「竜さんには今回、野々村係長の双子の弟を演じていただきます。野々村係長は、劇場版(「劇場版 SPEC~結~ 漸ノ篇」)で殉職しているんですが、『双子の弟が保谷に住んでる』というセリフを堤さんがアドリブで言わせてたので、その設定を使うことにしました(笑)。双子の兄弟だけあって、ダジャレを言ったり、女にだらしなかったりするところはお兄さんとそっくり。ただ、この野々村・弟は、真面目な公務員だったお兄さんと比べて、ちょっとひねくれてて、『この国は命を賭けてまで守る価値のあるものかね』なんていうセリフもあります。そして、松田くん演じる主人公は、その価値はあると思っている、まっすぐな若者。またその一方で、文乃さん演じるヒロインも、ちょっとひねくれていて。主人公のコンビのキャラクターのバランスは、当麻と瀬文に近いかもしれませんね」
──「恕乃抄」は“序章”という意味だと思うのですが、今後シリーズ化していくのでしょうか?
「構想としては、“序”、“破”、“急”と続いていく予定で、“破”と“急”は既に一部、撮影は始まっています。で、そこから先は全くの未定。“破=八”、“急=九”の次ということで、“十”、“十一”と続くかもしれないし、もしそうなったら、『スター・ウォーズ』みたいに、“二”から“七”は後から作ればいいかな、なんて思ってます(笑)」